第550章 深い愛と彼との思いがけない出会い（10）

もし彼が本当に彼女にアメリカへ同行してほしいと思っているなら、今日にでも田中白に彼女の航空券を予約させ、彼女を飛行機で向こうへ行かせればいい。わざわざ戻ってくる必要があるだろうか？

彼のこの提案は、ただ彼女を連れ出して気分転換させたいだけだ。

髙橋綾人が思いやりを見せれば見せるほど、森川記憶はますます悔しさを感じた。

「あるいは、フランスに行くのもいいかな？ダメなら、スイスでも……」

「髙橋綾人……」

髙橋綾人が再び口を開いた提案はまだ言い終わらないうちに、電話に出てからずっと黙っていた森川記憶が、突然口を開いた。

髙橋綾人は口元まで出かかっていた「イギリス」という言葉を止め、代わりにとても軽く「うん？」と返した。

森川記憶はまた沈黙した。

しかし今回、髙橋綾人は彼女を急かさなかった。