森川記憶の誕生日は、ちょうど名古屋テレビ局が毎年開催するテレビ賞授賞式と重なっていた。
彼女が出演した『三千の狂い』の助演女優として、最優秀助演女優賞にノミネートされていた。最終的には受賞できなかったものの、まだ芸能界で足場を固めていない彼女にとって、このような行事には顔を出すべきだった。
そのため、年明け前に松本儀子は既に名古屋行きの航空券を予約していたが、誰も春節期間中に悪評が広がるとは予想していなかった。予定されていた日程は、やむを得ず急遽キャンセルされることになった。
最近、森川記憶はずっと休息が取れておらず、誕生日の朝目覚めた時には体調がすぐれなかった。板藍根を一包み飲み、昼に両親と簡単に誕生日を祝った後、そのまま眠りに落ちた。
再び目覚めたときには、既に夕方の7時だった。
午後ずっと寝ていたせいか、あるいは板藍根が効いたのか、森川記憶はずっと元気になっていた。
家の中は電気がついておらず、あたり一面が真っ暗で、森川お父さんと森川叔母さんがどこに行ったのかわからなかった。
森川記憶は電気をつけ、携帯を手に両親に電話をかけようとしたとき、冷蔵庫に貼られた付箋に気づいた。森川叔母さんの字で「記憶ちゃん、お父さんと映画を見に行ってるわ。夕食は保温ボックスに入れておいたから」と書かれていた。
森川記憶は付箋をゴミ箱に捨て、保温ボックスを抱えてダイニングテーブルに座った。
家には彼女一人だけで、壁の時計の秒針のカチカチという音が聞こえるほど静かだった。
森川記憶はその音に少し不安になり、リモコンを探してリビングのテレビをつけ、音量を少し大きめにした。
テレビではちょうど名古屋テレビ局の今夜の授賞式が放送されていた。
授賞式の開始まであと30分ほどで、この授賞式に参加するスターたちの入場シーンが生中継されていた。
気分の影響で、森川記憶は最近、芸能界の出来事を避けられるなら避けていた。彼女がちょうどリモコンを持ってチャンネルを変えようとしたとき、テレビ画面に髙橋綾人の姿が映った。
黒いスーツ姿が彼の長身をより一層引き立てていた。彼と一緒に歩いていた二人の男優のうち一人は、ネットで「絶世の美顔」と評されていたが、彼と比べると少し影が薄く見えた。