弁当箱を置いた後、田中白は再び車のエンジンをかけた。
病院を出た時と同じように、車内は静寂に包まれていた。
「帝国ホテル」から森川記憶の家までは遠くなく、10分ほどで車は森川家のあるマンションに曲がり、森川記憶の家の前に停車した。
田中白は車から降り、森川記憶のためにドアを開け、ついでに弁当箱を持ち出した。
森川記憶が車から降りると、田中白はすぐに弁当箱を彼女の前に差し出した。「森川さん、このお持ち帰りをどうぞ。夜はやはり何か食べた方がいいですよ。」
森川記憶は受け取らなかった。「食欲がないから、あなたたちが持って帰って食べてください。」
「食欲がなくても少しは食べないと、胃に良くないですよ…」田中白がもう少し説得しようとしたとき、反対側のドアが開き、髙橋綾人が車から降りてきた。
田中白は言葉を止め、髙橋綾人が自分と森川記憶の側に来ると、「高橋社長」と呼びかけた。
髙橋綾人は何も言わず、ただ田中白に手を差し出した。
田中白は髙橋綾人の意図を理解し、すぐに弁当箱を渡した。
髙橋綾人はそれを受け取ると、振り返って森川記憶に向かった。「行こう、上まで送るよ。」
「必要ない…」森川記憶の「わ」という言葉がまだ口から出ていないうちに、髙橋綾人は彼女の手首をつかみ、そのまま彼女を連れて建物の中へ向かった。
髙橋綾人は以前森川記憶の家に来たことがあり、慣れた様子で彼女を連れて森川家の玄関に到着した。
髙橋綾人はすぐには帰らず、森川記憶が鍵を取り出してドアを開けるのを待ってから、先にドアを押して森川家に入った。
彼はお持ち帰りの箱をダイニングテーブルに置き、手を伸ばして温度を確かめると、まだ温かかったので、玄関でゆっくりと靴を脱いでいる森川記憶に向かって言った。「食事は温かいうちに食べた方がいいよ。」
森川記憶は何も言わず、靴を脱いだ後、部屋に入った。
髙橋綾人は彼女の方に二歩近づき、再び口を開いた。「食事の後、温かいお風呂に入って、早めに休んだ方がいい。」
森川記憶は軽く頷いたが、目の奥がまた痛くなってきたので、髙橋綾人から視線をそらし、横のテレビ台に目を向けた。