髙橋綾人はビルから出てきたが、すぐに車に乗り込まずに、車の横に立ち、タバコを一本取り出して火をつけた。
煙の向こう側から、彼は顔を上げ、森川家の灯りがついている窓を見上げた。
一本のタバコを吸い終えても、髙橋綾人は車に乗る様子を見せなかった。
森川記憶はおそらく寝室に戻ったのだろう、リビングの明かりはすべて消えていた。彼はまだ同じ場所に立ち、少しも動こうとしなかった。
車の中で待っていた田中白は時間を確認した。もう午前1時近くになっていた。高橋社長はこの寒い夜に、もう2時間以上も立ち続けている。このまま立ち続けたら、風邪をひいてしまうのではないだろうか?
そう思い、田中白は窓を下げた。「社長」
髙橋綾人は彼の声が聞こえなかったかのように、依然としてそこに立ち尽くし、まるで彫像のようだった。