森川記憶は知らなかった。自分が三万フィートの飛行機の中で取り乱している時、京都にいる佐藤未来は、病院の洗面所で、同じく悩み不安を抱えていたことを。
佐藤未来が体調不良を感じたのは、三日前のことだった。
その日の彼女は、『九重宮』の初稿脚本を徹夜で書き上げるつもりだったが、夜10時になると眠気に襲われ始めた。
どうしても耐えられなくなり、11時前に翌朝7時のアラームをセットして、ベッドに潜り込んで休むことにした。朝起きたら続きを書こうと思って。
一晩ぐっすり眠り、朝7時にアラームで起こされた時、丸8時間眠った佐藤未来は、それでも極度の眠気を感じていた。
しかし仕事が終わっていないことを思い出し、佐藤未来は眠気を必死にこらえて起き上がり、洗面所で歯を磨こうとした時、なぜか胃の中が突然むかつき、吐き気を催した。
残りは最後の一話だけで、いつもの進度なら佐藤未来は3〜4時間で脚本創作を完成できるはずだったが、その日は午後5時までかかってようやく仕事を終えた。
去年、菅生知海と付き合うことを承諾した後、菅生知海は自分のマンションの鍵を彼女に一組渡していた。
そろそろ夕食の時間だと思い、彼女は外出し、スーパーで新鮮な食材をいくつか選び、ついでに花束も買って、菅生知海のマンションへ向かった。
菅生知海はまだ仕事から帰っていなかったので、彼女は花を生けた後、菅生知海にメッセージを送り、今夜何時に帰るか尋ねた。
彼の返事を受け取った後、佐藤未来は心の中で時間を見積もり、夕食の準備を始めた。
香り高い三品の料理とスープがちょうどテーブルに並べられた時、菅生知海のマンションのドアから開く音が聞こえた。
佐藤未来はエプロンを外す暇もなく、玄関まで小走りに行き、気遣い深い妻のように屈んで、靴箱から菅生知海のスリッパを取り出し、彼の上着を受け取った。
一緒に夕食を食べた後、佐藤未来と菅生知海はリビングのソファに座って映画を一本見た。
映画の後半には「子供向けではない」シーンがあり、佐藤未来の腰を抱いていた菅生知海は、指先を彼女の服の中に忍ばせた。
映画は最後まで見ることなく、二人はソファの上で恋人同士がよくすることを始めた。