第603章 発見された結婚証明書(6)

「綾人……」携帯から、夏目美咲の声がまた聞こえてきた。

「うん、いるよ」髙橋綾人は森川記憶の足を放し、立ち上がろうとする様子を見せた。

これは彼女の怪我がそれほど深刻ではないと判断して、夏目美咲と結婚の話を続けるつもりなのだろうか?

そうなると、彼女が先ほど使った小細工は無駄になってしまう。足の指の痛みも無駄に耐えたことになる。

森川記憶が自分が非常に損をしたと感じていた時、髙橋綾人の携帯からまた夏目美咲の声が聞こえてきた。「綾人、さっきの質問にまだ答えてくれてないわ……」

夏目美咲の声に導かれ、森川記憶は髙橋綾人の携帯画面をちらりと覗き込んだ。

夏目美咲は胸元の開いた服を着て、わざと携帯を高く掲げ、雪のように白い胸の半分と谷間が全てビデオに映し出されていた。

これはビデオチャットではなく、明らかな色仕掛けだ!

森川記憶は手を伸ばしてビデオ通話を切りたい衝動を必死に抑え、髙橋綾人を見た。

男性はすでに立ち上がり、冷静な表情で携帯画面をちらりと見ていた。

直感的に森川記憶は、髙橋綾人が夏目美咲の胸を見るために目をやったのだと思った……やはり、男は生まれつき好色なのだ……髙橋綾人は普段高慢な態度を取っているが、骨の髄まで美人の誘惑には勝てないのだ……胸の誘惑の前では、髙橋綾人はこの後頭が混乱して、夏目美咲との結婚を承諾してしまうかもしれない……

「少し待っていてくれ、すぐ話を終えて戻る」森川記憶が考え事をしている間に、髙橋綾人の声が聞こえた。

森川記憶が我に返る前に、髙橋綾人はすでに携帯を持って身を翻していた。

話を終えるとはどういう意味だ?婚約の話をするということか?

「綾ちゃん……」森川記憶は考える間もなく、先ほど即興で髙橋綾人につけたあだ名を口にした。

髙橋綾人は去ろうとしていた体を突然震わせ、その場に立ち尽くした。

「綾人、じゃあ後でまた電話するわ?」

後で?後で彼女は髙橋綾人の部屋を出ているだろう……彼らは彼女という障害物を取り除いた後、ゆっくり話し合うつもりなのか?