なんて恥ずかしいんだろう……男の色気の前では、彼女の知能は犬に食べられてしまったのか?!
さっきの森川記憶が自分の愚かさに泣きそうになったとしたら、今の森川記憶は本当に泣きそうだった!
彼女は自分の頬が熱くなっているのをはっきりと感じ、それに伴って耳の付け根や首筋までも熱くなり始めた。
室内はとても静かだった。
森川記憶は周囲の雰囲気が異様なほど変わったのを明らかに感じることができた。
彼女は恥ずかしさのあまり心臓の鼓動が止まりそうになり、髙橋綾人をしばらく見つめた後、もごもごと声を出した。「誤解しないで、そういう意味じゃなくて、私はただ……眠くて、寝たいだけで……それに……それに、さっき東京での夜のことを思い出したのは、それは……それは……」
森川記憶は目を動かしながら、ちょうど窓際の口紅がたくさん掛かっている鉄製のツリーを見つけ、絶望の中に希望を見出したかのように、急いで言った。「……あの口紅を見て、あの夜あなたが私にくれた口紅を思い出したの……」
よかった、犬に食べられた知能が、また犬に吐き出されたみたいだ……
ようやく場を取り繕うことができた森川記憶は、密かにほっとして、それから彼女は書斎の反対側に立っている髙橋綾人が、じっと自分を見つめていることに気づいた。彼は完全に静止していた。
彼の顔に感情は見えなかったが、その眼差しは、深遠さの中に熱気を帯び、まるで透視力があるかのように、彼女の心の奥底まで直接見通すことができ、彼女が必死に隠している感情を、どこにも隠せないようにしていた。
森川記憶の指先が震え、さらに慌てた。
彼女は無意識に髙橋綾人の視線を避け、彼に心の内を見透かされることを恐れた。彼女は必死に自分の感情を安定させようとしたが、声を出した時の声色には、わずかに震えが混じっていた。「本当に眠いの、私は自分の部屋に戻って休むわ……」
言い終わると、森川記憶は急に立ち上がり、髙橋綾人が反応する間もなく、後ろの椅子を蹴飛ばし、ドアに向かって走り出した。
しかし彼女が二歩も走らないうちに、手首が髙橋綾人に掴まれた。
森川記憶は感電したかのように全身を震わせ、本能的に手を髙橋綾人の指先から引き抜こうとした。すると男性のやや淡々とした声が頭上から聞こえてきた。「食事をしてから、寝に戻りなさい。」