第624章 発見された結婚証明書（27）

「残念ね、あなたがバイオリンを弾くところをまだ見たことがないわ」

「今度機会があったら、弾いて聴かせるよ」

今度……森川記憶は初めてこの言葉がこんなにも心地よく響くと感じた。彼女の唇の端が思わず上がった。「うん、いいわ」

森川記憶の笑顔を見て、髙橋綾人の表情もずっと和らいだ。彼は何かを思い出したかのように、少し間を置いて言った。「そうだ、アイアンツリーと口紅、それにライトは田中白に宅配を手配させたから、この二、三日のうちに君の家に届くはずだ」

「うん、わかった」森川記憶はまた口元を緩め、目の前のコップを手に取り、一口飲んでから言った。「明日は学校が始まる日だけど、学校に行く予定？」

「まだわからない。明日は会社で会議があるんだ」少し間を置いて、髙橋綾人は尋ねた。「君は？何時に行くの？」

「たぶん早起きして学校に行くわ。絵里と約束してて、お昼に一緒に食事して、午後は買い物に行く予定なの」森川記憶は明日の予定を異常に詳しく答えた。

……

森川記憶と髙橋綾人はこのように、彼女が一言、彼が一言と気ままに会話を続けた。

時間はあっという間に過ぎ、リビングの時計が鳴り、森川記憶が横目で見ると、いつの間にか真夜中の12時になっていた。

もうかなり遅い時間だ。彼女は本当に別れを告げて帰るべきだった……そう思いながら、森川記憶は手に持っていたコップを置き、少し不本意そうに髙橋綾人の方を向いた。

彼女がまだ口を開く前に、髙橋綾人が突然立ち上がった。「ちょっとこっちに来てくれないか」

「どうしたの？」森川記憶は不思議そうに尋ねながらも、すでに立ち上がって髙橋綾人の後を追っていた。

髙橋綾人は森川記憶を書斎に案内し、先に机に向かって身をかがめ、パソコンの電源を入れた。

パスワードを入力しながら、髙橋綾人は画面を見つめ、素早くキーを打ちながら尋ねた。「今、眠い？」

「眠くないわ」森川記憶は首を振った。

「それならちょうどいい。『九重宮』の脚本の最初の3話を見てみてくれないか。何か不適切なところがないか確認してほしい」

森川記憶はすぐに近づいた。

髙橋綾人はマウスを握り、パソコン内で数回クリックすると、文書が開いた。彼はパソコンの前から離れ、オフィスチェアを引き出し、森川記憶にゆっくり見るよう促した。