第625章 発見された結婚証明書（28）

髙橋綾人は机に向かって歩きながら、また声を出した。「どこか修正が必要だと思うところはある？」

「未来が書いた脚本は、いつも質が高いから、修正するところはないわ。でも、いくつかのシーンを追加すれば、映画の撮影時のリズムや雰囲気がもっと良くなると思うの……」

森川記憶はそう言いながら、マウスを手に取り、先ほど脚本を読んでいる過程でひらめいたシーンを探し始めた。

「ここはストーリーを少し追加できると思うの……」記憶は最初にアイデアが浮かんだ場所で止まり、髙橋綾人に自分の考えを丁寧に説明し始めた。

髙橋綾人は記憶の話を遮ることなく、彼女が話し終えるまで聞いていた。彼女が話し終わると、彼は繰り返し始めた。

おそらく忘れないようにするためだろう、繰り返している間に、記憶の後ろに立ち、キーボードに手を置いてメモを取り始めた。

髙橋綾人のこの行動は、ちょうど記憶を彼の腕の中に包み込むような形になった。

彼特有の清々しい香りが、一瞬にして記憶の鼻腔に広がり、彼女の呼吸が止まりそうになり、パソコンの画面を見つめる心が落ち着かなくなった。

「ここに追加するストーリーは……」髙橋綾人の低く穏やかな声が記憶の頭上から聞こえてくると、彼の長く美しい指がキーボードの上で素早く動き始めた。

「それから、ここのストーリーは少し簡潔にできるわ……あと、ここのセリフはもっと面白くできると思う……」

最初のうち、記憶はまだ髙橋綾人の言葉を理解できていたが、彼がこのように彼女を腕の中に包み込む時間が長くなるにつれて、彼女の頭はますます鈍くなり、聴覚にも障害が現れ始めた。

彼の声はとても素敵だ、ネットで選ばれた一番の男性声優の声よりもずっと魅力的だ。それに彼の指はとても美しく、ピアニストの手よりも繊細だ。彼の体の香りもとても良い、どのブランドのボディソープなのだろう、とても淡いジャスミンの香りがして、柔らかく、かすかで、とても魅惑的だ……

記憶はそう考えながら、思わず顔を上げ、パソコンの画面を見つめながら話し、集中してメモを取っている髙橋綾人を見た。

彼が仕事をしている姿は本当に真剣で、思考に没頭しているときの表情には、何か深遠な味わいがあり、測り知れない神秘的な感覚を与えていた。

記憶は見つめているうちに、思わずぼんやりとしてしまった。