しかも、泣きながら電話を切ったみたいで……つまり、彼女は髙橋綾人の愛慕者を見事に打ち砕いたということ?
成功した森川記憶は、喜びもつかの間、自分が先ほど髙橋綾人と何をしたのかを思い出した。
彼女は、彼女はなんと焦りのあまり、髙橋綾人にキスしたのだ?
キスだけならまだしも、夏目美咲が「綾人」と呼んだとき、彼女は、彼女はなんと髙橋綾人の唇を開かせたのだ?
今夜の彼女の口は毒されているようだ。最初は「あなたと寝たい」と言い、今度はキスまでして……
森川記憶は心の中で後悔しながら、必死に指をつねって言い訳を考えた。しばらくして、森川記憶は真面目な顔で説明した。「あの……さっきは、あなたがずっと彼女の電話に出ないから、多分彼女にまとわりつかれるのが好きじゃないんだと思って、それに彼女があなたのことを好きなのも分かったから、とっさの判断で、ちょっとだけ手助けしただけ……」
目の前からはしばらく声が聞こえなかった。
髙橋綾人は自分から積極的にキスしたことで怒っているのだろうか?
森川記憶はそっとまぶたを上げ、髙橋綾人を盗み見た。
彼はそれに気づいたようで、彼女の視線を捉えた。森川記憶は心虚になって視線をそらした。すると髙橋綾人のさらりとした声が聞こえてきた。その口調は彼女が先ほど話したときと同じように、同様に真面目だった。「ありがとう」
キスという不真面目なことが、まるで「落ちていた1元を拾って相手に返した」かのように、二人によってこんなに真面目な話になるなんて。
森川記憶は心の中でちょっと恥ずかしくなり、少し硬い笑顔を浮かべた。「あの、どういたしまして、私たちは友達だし……」
友達?
この二文字は、髙橋綾人を好きでもあり苦しくもさせた。彼は少し間を置いてから、普段通りの口調で言った。「うん、友達のためにそんな犠牲を払うなんて、すごいね」
え?髙橋綾人はもしかして、彼女がどんな異性の友達にもこうするとでも思っているのだろうか?
森川記憶は思わず首を振った。「違うよ、私はあなただけにこうするの……」
「あなただけにこうする」って何?まるで告白みたいじゃないか。
今夜の彼女の口は、本当に毒されているようだ!