第7章 もうとっくにアレしたんでしょ

その動作は、まるで彼の手が彼女の唇に触れているようだった。

そのため、彼女は急いで手を伸ばし、手の甲で自分の唇を強く何度か拭った。

南条陽凌は眉を上げた。

「お前は私の妻だ、私がこうすることは当然のことだ」彼の口調は冷たく威圧的になった。

心の中では非常に不満だった、この女は彼を嫌っているのか？

しかし彼女が眉間にしわを寄せ、顔を赤らめ、まるで毛を逆立てた野良猫のようになっているのを見て、彼は突然おかしくなった。

そして付け加えた。「だから、過去のことを覚えているかどうかに関わらず、お前は私の妻だ、私には夫婦の義務を果たす権利がある」

彼の言葉には何か隠された意味があり、一瞬、彼の視線も熱くなり、とても軽薄になった。

夏野暖香は何かを思い出し、完全に呆然としてしまった。

まずい……！

もしこの体の持ち主が彼の妻なら、二人はきっとすでに……あれをしているはずだ。

なぜか、そう考えると、彼女の脳裏には5年前のあの夜が浮かんできた。

そういう経験はあったが、あの時は彼女の本意ではなかった。これほど長い間、彼女は自分の体を大切にしてきた。

そうすることで、心の奥底にある少しの尊厳を守れると思い、自分はそれほど汚れていないと感じていた。

しかし今は……その哀れな自己慰めさえ失ってしまった！

うう、まさに泣きたくても涙が出ない状況だ。

そのとき、南条陽凌が前に出て、彼女の体を引き寄せ、長い指で彼女の横顔をなぞり、目には甘い炎を燃やしながら言った。「こんなに顔を赤らめて、奥さん、もしかして何か場面を思い出して、恥ずかしくなったのか？」

「違います！」夏野暖香は恥ずかしさのあまり顔をそらし、彼と距離を取り、恥じらいと怒りで叫んだ。「変態、あっちに行って！」

この男は、人を騙す美しい外見以外、本当に嫌な奴だ！

傲慢で横柄で、しかも思考回路が完全に変態じゃん！

可哀想に、彼女はさっきまで彼の外見に惑わされそうになっていた！

やはり、美しいキノコほど毒があるように、男も同じだ！

「お嬢様……旦那様にそんな風に話してはいけません」芸子は彼女の耳元で静かに諫めた。

夏野暖香は言葉もなく冷たく鼻を鳴らし、南条陽凌を強く睨みつけた。

南条陽凌は彼女が恥ずかしさで真っ赤な顔をしながらも強情に彼を睨む様子を見て、心の奥底で何かがくすぐられるような感覚を覚えた。

なぜ記憶喪失後の夏野暖香の方が面白く感じるのだろう？

以前の彼にべったりくっついて、あちこちで彼の機嫌を取ろうとする妻は、彼が遠くに逃げたくなるだけだった！

南条陽凌はもう少し彼女をからかおうと思ったが、何かを思い出し、ドアの方に向かって指を鳴らした。

すぐに、中年の医者が入ってきて、夏野暖香に一連の検査をした後、聴診器を外し、南条陽凌の方を向いて敬意を込めて言った。「帝様、若奥様の体はすでに回復しています。おそらくプールに落ちた時に……頭部に衝撃を受け、脳に内出血があり、それが記憶喪失の原因となっています……このような例は医学的にはよくあることです」

南条陽凌は冷たい声で尋ねた。「彼女が過去のことを思い出すまでにどれくらいかかる？」

「それは難しいですね……患者は選択的記憶喪失の状態で、脳内で不快な記憶を選択的に忘れています。いつ思い出せるかは、患者自身の潜在意識と思考次第です」

南条陽凌は薄い唇を軽く噛み、深い眼差しで夏野暖香を見つめた。