「もしもし……何?!すぐに戻ります!」南条陽凌の顔色が極めて悪くなり、衝撃のあまり、急いでスーツケースを持って立ち去らざるを得なかった。
ドアを開けるとき、緑の瞳が惜しむように、ベッドの上の少女を見つめた。
下げた手で、強く拳を握りしめた。
決然とスーツケースを持ち上げ、素早く立ち去った。
……
夏野暖香が目を覚ましたとき、寝室には彼女一人だけだった。
全身には青紫や赤い痕が残り、何かを証明しているようだった。
彼女は信じられないという表情で自分の体と目の前の光景を見つめた。
朦朧とした混乱した記憶、一晩中の絡み合い、男の逞しい体、荒々しい動き……彼女は頭が混乱していると感じた。
ただ、最初から最後まで、彼女はその男の顔をはっきりと見ることができなかった!
彼女は急いで服を着て階下に駆け下り、自分の荷物をまとめると、給料も取りに戻らずに辞職して去った。
自分と関係を持ったその男が誰なのかさえ、わからなかった。
彼女が覚えているのは、浴室から出てきた人がいて、その後、木下マネージャーが連れて行かれたということだけだった。
そして、彼女はその男と……
半月後、彼女は木下マネージャーが自殺したという知らせを偶然耳にした。何年もの間、複数の女性従業員にセクハラをしていたため、無期懲役の判決を受け、木下マネージャーはその判決に納得できず、拘置所で自殺したという。
これに彼女は衝撃を受けたが、心の中ではかなりすっきりした気持ちになった。
悪人は、ついに報いを受けたのだ!
長年にわたり、あの夜の光景が頭の中によみがえってきた。
彼女が必死に考えないようにしていたにもかかわらず。
しかし結局、あれは彼女の初めての経験だったのだから……
……
豪華で洗練された社長室。
南条陽凌は身体にフィットした清潔なスーツを着て、デスクに座っていた。
彼の前の机の上には、一枚の絵が置かれていた。
絵の中の少女は穏やかで優しい顔をしていたが、眠っている姿だった。
顔の半分しか見えなかったが、それでも清楚な容姿であることがわかった。
ちょうどそのとき、ノックの音が聞こえた。
ハーフの男性が敬意を表して入ってきた。彼のアシスタントの藤田様樹だった。
男は彼の手にある絵を見て言った。「社長、人はもう連れてきました……」
南条陽凌はうなずいた。