第54章 彼女に嫉妬させるのはそんなに難しいのか1

エレベーターのドアが閉まるとすぐに、南条陽凌は彼女に体重をかけてきた。

「南条陽凌、何を発狂してるの！」夏野暖香は必死に彼を押しのけた。南条陽凌は片手で彼女の両手を頭の上で固定した。

大きな手が彼女のボタンを外し始めた。

一つ、二つ。

夏野暖香の全身が痙攣した。彼の力は強く、彼女は痛みで死にそうだった。全身に怒りが爆発し、彼女は頭がくらくらするほど苦しめられていた。

夏野暖香の体は激しく震えていた。

そのとき、エレベーターがチンと鳴った。

夢から覚めたように、夏野暖香の真っ白な頭脳はその音で現実に引き戻された。すぐに、体の上の男を力強く押しのけた。

慌てて自分の服を整え、目を開けると、エレベーターの前に立っている一群の人々が見えた。

エレベーターの中では、南条陽凌は服装こそ整っていたものの、息遣いが乱れていた。夏野暖香の唇は赤く、首筋には明らかな痕跡があり、片手で胸元をしっかりと守っていた。

エレベーターの外の人々は、何が起こったのかすぐに分かり、表情は様々だった。エレベーターの中の男は息を呑むほどハンサムで、その女性も同様に美しかった。

まるで映画の一場面を見ているような感覚だった。

ただ、その中の一人は、表情に特に変化はなかったが、目には微かに浅い笑みが隠されているようだった。

夏野暖香の視線がその人の顔に落ちたとき、彼女の体全体が激しく震えた。

一瞬にして、頬が燃え上がるように熱くなった。

心臓も何かに強く打たれたようだった。

彼だ……

そうなると、彼女の惨めな姿を彼はすべて見ていたに違いない。夏野暖香の目は一瞬で霧がかかったようになり、心臓も激しく痛み始めた。

しかし幸いなことに、橋本健太の視線は彼女の顔をさっと流し見ただけで、全く留まることなく、すぐに南条陽凌の方に向けられた。

南条陽凌に微笑みながら言った。「食事会があるって言ってたじゃないか、どうしてそんなに早く帰るんだ？」

南条陽凌の表情はレストランにいた時よりも少し和らいでいたが、ただこう言った。「真珠と飛鴻が上にいるから、先に上がってくれ。また今度集まろう。」

「わかった……」

夏野暖香はほとんど顔を胸に埋めるようにして、エレベーターから逃げ出した。

しかし、ビルの出口に出るとすぐに、後ろから追いかけてきた南条陽凌に体を掴まれた。