第59章 怒っていてもこんなに魅力的2

「私もよ！あなたは知らないでしょうけど、あの格好良くて背が高くて威厳のある帝様が近づいてきた時、私の体は固まってしまったの。そして彼がカードを投げつけた瞬間、呼吸が止まるかと思ったわ」

「怒っている時でさえ、あんなに魅力的なんて...」

「でも、帝様を怒らせることができる女性って、本当にすごいわよね！以前帝様が連れてきた女たちを見なかった？みんな必死に彼に取り入ろうとしていたわ。彼が一目見るだけで、あの女たちは跪いて足の指をマッサージしてあげたいくらいだったのよ...」

「あら、なんて酸っぱい言い方。あなたが跪いて舐めたくても、相手にされないだけでしょ！」

「ちっ、まるであなたならできるみたいな言い方ね！あなたが裸になっても、彼は見向きもしないわよ！」

二人のバーテンダーは噂話をしながら口論を始めた。

南条陽凌は冷たい表情で車の中に座り、自分が足の指を舐めるか尻を舐めるかという話題で議論されていることなど全く知らなかった。彼はハンドルを握り、全身から殺気を放っていた。

夏野暖香が追いかけてきて、車に近づくと、すぐに気圧の異変を感じた。

車全体から不気味な雰囲気が漂い、一歩近づくだけで致命的な危険を感じた。しかし手にカードを持っていたので、彼女は勇気を振り絞ってドアを開けた。

中には入らず、カードを南条陽凌に差し出した。

「これ、あなたのキャッシュカード...」南条陽凌が無視するのを見て、彼女はしょんぼりとカードを車の前に置き、弱々しく言った。「あの...私はタクシーで帰るから大丈夫。先に行ってください...」

普段なら、彼が怒っても気にしないところだった。しかし今回は橋本健太に関することで、彼女は軽はずみな行動を取る勇気がなかった。

もし南条陽凌が怒りのあまり彼に八つ当たりしたら、彼女は後悔してしまうだろう。

しかし、どう説明すればいいのかわからなかった。なぜなら、このような状況では、どんな説明も事態を悪化させるだけだからだ。

だから、最善の策は知らないふりをして逃げることだった。

彼女はそう言うと、彼の不機嫌な顔色をこれ以上見る勇気もなく、ドアを閉めようとした。

「乗れ！」冷たく厳しい声が聞こえた。

夏野暖香の体は激しく震えた。

「あの...私...」

「二度言わせるな」南条陽凌の口調には冷たさが滲んでいた。