南条陽凌は息を飲んだ。
彼女が「陽凌」と呼んだとき、心の中の何かが揺さぶられたような気がした。
忌々しい女だ。
「陽凌……」夏野暖香は彼が少し心を動かされたのを見て、また手を伸ばして彼の服の裾を引っ張った。
「怒らないでよ……私……体調が悪いし、生理中はイライラしやすいし……わかってる、あなたが私に優しくしてくれてること……昨夜も、あんなに辛かったのに、我慢して私に触れなかったこと……」
甘えた声を出すなんて誰でもできるでしょ?演技じゃない。でも……自分の甘えた声を聞いていると、鳥肌が立ちそうだった。
やはり、どんな女性でも自然に甘えた声を出せるわけではないようだ。
ただ不思議なのは、こんな偽物の声なのに、なぜ男はそれを聞くのが好きなのか!
だから、男は視覚と聴覚の動物なのだ!
顔を上げて南条陽凌を見ると、彼の顔に一瞬、感動の色が浮かんだように見えた。
彼女は勇気づけられたかのように、一歩前に出て彼の体を抱きしめ、顔を彼の胸に押し付けた。強い男性の匂いが彼女を包み込む。「陽凌……もう怒らないでよ……」
夏野暖香はもうどうでもよくなっていた。南条陽凌は嫌いだけど、時には彼も完全に非人間的というわけではない。
昨夜のように、彼は確かに彼女を守るために、自分を縛らせたのだ。
その瞬間、彼女も少しは感謝の気持ちがなかったわけではない。
そう考えると、甘えた声を出す難易度は少し下がったような気がした。
やはり、好きな人や嫌いではない人の前でこそ、自然に甘えることができるのだ。
抱きしめている相手が南條漠真だと想像しよう……
男からはかすかなタバコの香りと、彼特有の匂いがした。夏野暖香はそれを嗅いでいないふりをした。
それでも彼の胸の鼓動を感じ、一つ一つがはっきりと伝わってきた。
この男も、完全に冷たく非情というわけではないようだ。
しかし突然、彼女の体はぴくりと硬直した。
明らかに、男が反応していることを感じた。
彼女の声と体の接近に伴い、彼女の整った小さな顔は一瞬で真っ黒になった。
この男は……本当に。
夏野暖香の心に警報が鳴り響き、無意識に彼を押しのけようとした。
しかし予想外に、南条陽凌はタイミングよく彼女をきつく抱きしめ、彼女の体をさらに自分に引き寄せた。