第25章 あなたを食べたりしないよ

芸子は夏野暖香の母親が悲しむことを心配して、最初は彼女の自殺未遂のことを家族に伝えていなかった。本来なら夏野暖香が目覚めたら家族に知らせて彼女に会いに来てもらうつもりだったが、夏野暖香に拒否されてしまった。

彼女はもう以前の夏野暖香ではなく、今では家族さえも分からないかもしれない。会えばきっと気まずいだろう？だから、まだ会わない方がいい。

芸子は彼女の様子を見て、目に涙を浮かべた。「お嬢様、辛い思いをさせてしまって。」

夏野暖香は微笑んだ。「芸子、私はもう以前の暖香ちゃんじゃないの。昔のことを覚えていないから、全然辛くなんかないわよ！」

芸子はため息をつき、手を伸ばして彼女の頭を撫でながら、哀れむように言った。「それもいいかもね、いいことよ！」

夏野暖香が退院する日、芸子は彼女の荷物をまとめていた。二人きりだと思っていたが、突然南条陽凌が病室のドアに現れた。

夏野暖香が顔を上げて彼を見たとき、思わず体が硬直した。

芸子も呆然としていたが、しばらくしてようやく声を出した。「旦那様、いらっしゃいましたか。」

「ああ。」南条陽凌は彼女を見つめた。「準備ができたら行こう。」

夏野暖香は彼をにらみつけた。南条陽凌は彼女のにらみに一瞬驚いた。

あの日のことを思い出し、思わず唇の端に笑みが浮かんだ。

彼女を見る目には少し色っぽさが混じっていた。「奥さん、数日会わなかったけど、旦那の俺がさらにハンサムになったと思わない？」

夏野暖香は呆れた。「あなたってもっと自己陶酔できるの？」

南条陽凌が前に進むと、夏野暖香はすぐに一歩後ずさった。南条陽凌は彼女の敏感な反応に驚いた。

どうやら、この女性は本当に記憶を失ったようだ。性格まで180度変わってしまった。

しかし、いつも女性に気に入られることに慣れていた南条陽凌は、突然このような野生の猫のような性格に直面して、むしろ自分の好みに合っていると感じた。

「なぜそんなに俺を怖がるの？芸子もここにいるし、俺は何もしないよ？」

南条陽凌の笑顔はさらに悪戯っぽくなった。その口調は明らかに、人がいるから食べたりしないよ、と言っているようだった。

傍らの芸子は少し気まずそうに軽く咳をした。「旦那様、私が先に…」