しかし同時に笑顔も見せた。
橋本健太の優しく澄んだ笑顔はエレベーターの照明の下で、特に魅力的だった。
そのため、夏野暖香の中で抑えられていた薬の効果が、ほぼ一瞬のうちに爆発した。
彼女の顔は一瞬で真っ赤になり、目には慌てと迷いが浮かんだ。
橋本健太は彼女を見て、少し眉をひそめた。「暖香おばさん、どうしたの?具合が悪いの?」
夏野暖香は彼が「おばさん」と呼んだ瞬間、心が砕けそうになった。
まるで頭から冷水を浴びせられたようだった。
彼女は再び目を上げ、素早く彼を一瞥した。
そして口を開いた。「大丈夫…」
「あなた…どうしてここに?陽凌も…来てるの?」橋本健太は不思議そうに尋ねた。
「いいえ、来てないわ!」夏野暖香は素早く言い、言ってから自分が敏感すぎると思い、付け加えた。「私一人で来たの。」
橋本健太はうなずいた。
しばらくして、彼は再び口を開いた。「おばさん…陽凌と喧嘩したの?」
夏野暖香はもう我慢できなかった。
「私をおばさんって呼ばないで!」彼女は目を上げて彼を睨み、大声で叫んだ。
橋本健太:……
雰囲気は一瞬で凍りついた。
夏野暖香は橋本健太の目を見つめ、目の縁が少しずつ赤くなっていった。
一方、橋本健太は、その端正な顔に完全に訳が分からないという可愛らしい表情を浮かべていた。
しかしすぐに、彼はまた我に返り、彼女に微笑みかけた。
きっと陽凌と喧嘩したんだろう、だから彼が彼女を「おばさん」と呼ぶのも嫌がるんだ!
彼は彼女をなだめる言葉をかけたかったが、彼女の様子を見ると、今にも泣きそうで、さらに恨みがましい目で彼を睨んでいるので、結局我慢した。
すでにホテルに戻ったら南条陽凌に電話して、彼に怒らせた小さな妻を慰めるよう言おうと決めていた。
しかし、数回しか会ったことがなかったが、彼は夏野暖香がとても面白い人だと思った。彼女には言葉では表現できない何かがあった。
彼は手を唇に当て、軽く咳払いをした。そしてエレベーターの上昇する数字を見つめた。「あの…何階ですか?」
夏野暖香はそこで初めて、自分がエレベーターに乗ったとき、階数のボタンを押すことを忘れていたことに気づいた。
手を伸ばしてボタンを押そうとしたとき、32階のボタンがすでに押されているのを見た。
しかもすぐに到着しそうだった。