夏野暖香は自分の心臓が飛び出しそうな気がした。
喉は乾いて痒かった。
橋本健太の前で、ルームキーを持ち、手が震えて何度も試してようやくドアを開けた。
「おやすみ……」橋本健太は玄関に立ち、紳士的に彼女のために部屋の明かりをつけてから、言った。「僕はすぐ隣の部屋にいるから、何かあったら呼んでね。」
夏野暖香は彼を見つめ、もごもごと言いよどんだ後、ようやく言った。「あなた……少し入って座っていかない?」
橋本健太は明らかに帰ろうとする素振りを見せていた。
しかし予想外に、夏野暖香が突然そんなことを言い出した。
それもいいだろう、おそらく彼女と南宮さんがなぜ喧嘩したのか理解できるかもしれない、そうすれば陽凌を助ける方法も見つかるだろう。
しかし、陽凌のやつ、まさか奥さんを怒らせて家出させるほどの腕前を持つようになったとは、本当に言葉もない。
「いいよ、お邪魔します。」見たところ、橋本健太は非常に躾の行き届いた礼儀正しい人で、話し方や言動のあらゆる面で、とても礼儀正しく教養のある印象を与えた。
彼女の心の中の南條漠真は、確かに彼女を失望させなかった。
それに比べて、あの傲慢で横柄な南条陽凌は、夏野暖香にますます嫌われるようになった。
これはスイートルームで、中には寝室とリビング、洗面所、さらに小さなキッチンがあった。夏野暖香は実際に来たときにどんな部屋か知らなかったが、とにかく南条陽凌はとてもお金持ちだし、彼女も南条夫人なのに普通のシングルルームに泊まるほど馬鹿ではなかった。
そこでフロントでどんな部屋を選ぶか聞かれたとき、彼女はただ「中上クラスで結構です」と言った。今思えば、少し幸運だった。
もしこの部屋を選んでいなければ、橋本健太にも会えなかっただろう。
「あなた……何か飲む?」夏野暖香は冷蔵庫の前に行き、中にはさまざまな飲み物やビール、さらにスナック菓子など、何でも揃っていた。
夏野暖香は緊張しながらも心の中でつぶやいた、お金持ちはいいなぁ。
以前と違って、彼女が大学生だった頃、お金を節約するために、ホテルで我慢できずに飲み物を飲んでしまい、それからスーパーに走って同じものを買って補充したという友人の話を聞いたことがあった。
ホテルの飲み物はすべて高価だからだ。