第96章 【96】橋本さんと同室に4

「私は……彼は私のことが好きじゃないの……私も……私も彼のことが好きじゃない。」夏野暖香は大胆にもそう言い切った。

その結果、ちょうど飲み物を飲んでいた橋本さんはむせそうになった。

夏野暖香の顔色が一瞬で変わった。慌てて興奮して立ち上がり、「あなた……大丈夫？」

橋本健太は二、三回咳をして、笑いながら彼女に手を振った。「だい、大丈夫だよ、ごめん……」

彼女が南条陽凌は彼女のことが好きではないと言ったことに、彼はそれほど驚かなかった。結局のところ、南条陽凌はいつも高慢で自己中心的な人物だったし、彼も二人がビジネス上の政略結婚だと聞いていた。

しかし、南条陽凌のことを好きではないと面と向かって言う女性がいるなんて、しかも南条陽凌と日々生活を共にしている人が、これは本当に目を疑うほどだった。

A市の上流社会では、こんな言葉が流れていた。南条陽凌のベッドに上がった女性で、自ら降りようとした者はいない。

簡単に言えば、みんな南条陽凌に蹴落とされたのだ。

いつも女性を衣服のように扱う南条陽凌は、女性を変えることが日常茶飯事だった。

以前彼の周りにいた関係のあった女性たちもこの点を証明していた。あの女性たちはみな、彼のことを死ぬほど愛していたではないか。

南条陽凌の磁場はあまりにも強力で、これこそが彼が自分の妹を彼に近づけないようにしていた理由だった。

そんな男を愛することは、必ず傷つくことを意味していた。

「本当のことを言ってるの。」夏野暖香は彼が信じていないと思い、もう一度繰り返した。

今度は橋本健太は突然何を言えばいいのか分からなくなった。

しばらくして、彼はようやく口を開いた。「私は結婚したことはないけど……夫婦喧嘩は普通のことだと思うよ。数日経てば、そんなふうに言わなくなるさ……」

公の場で南条陽凌の権威に挑戦する女性、南条陽凌にノーと言える女性を、橋本健太も初めて見た。

元々彼は、もしこの女性が彼の前で泣いたり、悲しんだりしたら、南条陽凌に彼女がまだ彼のことを気にかけていると伝えようと思っていた。

しかし今見ると、問題はちょっと手に負えないようだ。

彼はもう彼らの夫婦間の問題に関わったことを後悔し始めていた。

特に、夏野暖香が複雑な、彼には全く理解できない視線で彼を見たとき。

なぜか心に異様な感覚が生まれていた。