第173章 【173】公衆の前で彼に連れ去られる1

「暖香ちゃん……これからは一緒に撮影するから、よろしくね!」松本紫乃は夏野暖香の手を握りしめ、花のように笑った。

「暖香ちゃん……これは私が家から持ってきた、あなたのために特別に作ったお弁当よ!」

「暖香ちゃん、今日の服とても素敵ね、雰囲気も良いわ!」

夏野暖香は一夜にして、皆に追い求められる存在となった。

実際、彼女は暇な時に、噂話を耳にしないわけではなかった。

みんなは言っていた、彼女はこの南条家の若奥様で、以前は性格が弱いと噂されていたと。

実は、豚に化けた虎だったのだ。

山下婉は暖香ちゃんを怒らせ、数日後には悲惨な死を遂げた。

もっとも、公式には自殺と報道されていたが。

しかし、真実の状況は、誰にもわからない。

それに、南条家の勢力を考えれば、皆が推測したとしても、人のいない場所で、遠回しな言い方でしかこの件について話せない。

誰も、山下婉が暖香ちゃんを怒らせたために殺されたとは言えなかった。

皆が彼女に対して友好的で熱心になったとはいえ。

しかし夏野暖香は、皆が彼女を見る目に、いくらかの警戒心があると感じていた。

もちろん、関口月子を除いては。

「暖香ちゃん、あの人たちの言うことなんて気にしないで!どんな時でも、私はずっとあなたの味方よ!」食事の時、関口月子は弁当箱から手羽先を暖香ちゃんの茶碗に取り分け、笑いながら言った。

暖香ちゃんはそんな言葉を聞いて、心の中がとても温かくなった。

実際、彼女はこのような結果になることを予想していた。

結局、それは一人の命だった。

だから、彼女は聞こえなかったふりをして、おとなしく自分の役を演じ、自分の生活を送っていた。

実際、そばに一人でも彼女を支え、励まし、共に努力してくれる人がいれば、それだけで十分だった。

彼女は手羽先を再び関口月子の茶碗に戻した。

彼女は知っていた、関口月子の家庭環境は普通で、彼女のような境遇では、ほとんどがお金持ちの子女たちがいる映像学院での生活の厳しさは想像に難くない。

それでも彼女は、自分の夢のために、今まで頑張ってきた。

普段、彼女が綺麗な服を着ているのを見ることはめったになく、毎日家と学校の往復も、バスで通っていた。