第174章 【174】公衆の前で彼に連れ去られる2

「あなた……何してるの？」夏野暖香は気まずそうに彼を見つめ、振りほどこうとしたが、彼はまるでそれを予測していたかのように、逆に力を強め、大きな手で彼女の手をしっかりと握った。

「妻よ、もちろん君を家に連れ帰りに来たんだ！」彼はごく自然に言った。まるで日常的なことのように。

しかし、周りで見ていた人たちは皆、驚きのあまり顎が落ちそうになっていた。

誤解だ、これはすべて誤解だったのだ。

皇太子は実は、あんなにも自分の妻を愛していたのだ！

彼が彼女を見つめる眼差しには、かつてない集中力があった。

少し離れたところに立っていた松本紫乃の顔は、怒りで紫色になっていた。

しかし、彼女はただ痛みを我慢して、南条陽凌と夏野暖香が手を繋いで自分の前を歩いていくのを見るしかなかった。

結局、愛人とは場を盛り上げるための道具に過ぎなかったのだ。

彼が必要とする時は手のひらに乗せ、必要でなくなれば一蹴りで追い払う！

松本紫乃は恥ずかしさと怒りが入り混じり、人々の視線も気にせず、振り返って走り去った。

夏野暖香は受け身のまま南条陽凌に引っ張られていた。

公の場で彼と親密な行為をすることは、どんなに嫌だとしても。

たとえ手を繋ぐだけでも。

しかし、彼女も知っていた。南条陽凌がいなければ、彼女の演技の仕事も、彼女のすべてが、一歩も前に進めないことを。

彼女が撮影現場に来てからまだ間もないのに、こんなにも多くのことが起きていた。

芸能界の上下関係、その中の血なまぐさい争いは、すでに一端を見せていた。

以前の彼女は、あまりにも純真すぎた。自分の能力と情熱だけで、すべてを手に入れられると思っていた。

しかし、理想は豊かでも、現実は厳しい。

彼女はすでにここまで追い詰められたのだから、もう引き返す余地はなかった。

それに、南条陽凌はやはり彼女の夫だ。彼を利用して全てを手に入れる方が、他の女に利用されるよりはましだ。

あの松本紫乃は、南条陽凌の寵愛を盾に、彼女という正妻を全く眼中に入れていなかった。

今日こそ、彼女に少し色を見せてやる時だった。

恥ずかしさと怒りで去っていく松本紫乃の背中を見て、夏野暖香は本当に気分が良かった。

南条陽凌は顔を下げた。

視線はちょうど夏野暖香の少し上がった唇の端に落ちた。

彼の目にも、一筋の笑みが閃いた。