多くの医師や看護師がこの階を通るとき、思わず目を輝かせて中を覗き込むが、この階には南条陽凌が入院しているため、他の部外者は立ち入ることができない。
「ねえ、聞いた?今朝、誰かが病院に9999本のチューリップを届けたんだって!まるで映画みたいで、すごくロマンチックよね…」
「そうなの、皇太子様が手配したって聞いたわ。きっと若奥様へのプレゼントね。夏野暖香ってどうしてあんなに運がいいのかしら。もし誰かが私にそんなことをしてくれたら、幸せで気絶しちゃうわ!」
「夢見るのはやめなさいよ。相手は皇太子様なのよ!一輪でも私にくれたら、喜びで気が狂っちゃうわ!もう見ないで、私たちはただ香りを嗅ぐだけの身分なんだから!」
「はぁ…羨ましい、妬ましい…」
病院中、至る所で看護師たちのそんな噂話が聞こえていた。
南条陽凌はベッドに横たわっていた。
夏野暖香が突然現れるのを恐れて、酸素ボンベを使うことを頑として拒否していた。
ただ窓を開けるよう命じただけだった。
さもなければ夏野暖香に彼がチューリップにアレルギーがあることを知られたら、また彼を嘲笑うかもしれない!
一面のチューリップは、幻想的な白さを放っていた。
風がカーテンを揺らし、花びらを舞い上がらせ、病室全体が不思議な光景に包まれていた。
病衣を着た南条陽凌はベッドに横たわり、その花びらを見つめながら、唇の端にかすかな笑みを浮かべていた。
時折、視線を入口に向けていた。
端正な顔は病的な白さを帯びていたが、それでも美しく人を驚かせるほどだった。
しかし、時間は一分一秒と過ぎていった。
夏野暖香は現れなかった。
南条陽凌の意識も、だんだんと朦朧としてきた。
……
病室の外。
ボディーガードたちはすでに藤田抑子に電話をかけていた。
他の仕事を処理していた藤田抑子はこの事態を知り、非常に驚いた。
すぐに人を遣わして夏野暖香を迎えに行かせた。
そして、彼自身も急いで駆けつけた。
藤田抑子が病室に駆け込んだとき、南条陽凌はすでに半昏睡状態に陥っていた。
「若帝!若帝!」藤田抑子は動揺して南条陽凌の体を揺さぶり、医師が急いで駆けつけてきた。
南条陽凌は完全に意識を失ってはおらず、揺り起こされた。
彼は藤田抑子の腕をつかんだ。
「暖香ちゃん…暖香ちゃんはどこだ!?」