額に、冷や汗が浮かんでいた。
心の中では、ひそかに安堵していた。
藤田抑子の話を聞いて、後ろの写真を南条陽凌に渡さなかったことを。
なぜなら、二人の画像は、あまりにも想像を掻き立てるものだったから。しかし恐れていたのは、すべてが誤解に過ぎないということだった。
そして今、皇太子は二人が会っている場面を見ただけで、これほど怒っている。
もし橋本さんと若奥様が車の中にいる画像を見たら。
恐らく、皇太子は本当に怒り狂うだろう。
もし衝動的に、取り返しのつかないことをしてしまったら。
その結果は、想像を絶するものになるだろう。
藤田抑子は長年南条陽凌の側にいた。
南条陽凌が最も信頼し、また最も忠実な副官だった。
藤田抑子は彼の性格を最もよく知る者でもあった。
だから、南条陽凌のボディーガードたちは、何か問題があって決断できないときは、いつも藤田抑子に指示を仰いでいた。
今回は、本当に危なかった。
「出ていけ!」南条陽凌は冷たく言った。
「はい...皇太子様。」ボディーガードは急いで答え、一歩下がってから、汗を拭きながら急いで立ち去った。
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夏野暖香が病院の廊下に入るとすぐに。
雰囲気がおかしいと感じた。
ボディーガードたちがドアの前に立ち、まるで棒立ちのようだった。
国慶節のパレードに参加しているかのように、表情は厳しかった。
そして彼女を見る目も、どこかおかしかった...
「若奥様...」数人が彼女を見て、それぞれ敬意を込めて挨拶した。
しかしその目には、同情と複雑さが混ざっていた。
もしかして、南条陽凌に何かあったのだろうか?
まさか、ただの足の怪我だし、彼は動けないはずだ。何かあったとしても、大騒ぎになるほどではないだろう?
夏野暖香は数人に微笑みかけた。
そしてドアを押して入った。
「ただいま!」夏野暖香はドアを入るなり、大きな声で言った。
そしてベッドの側に行き、手に持っていたテイクアウトを隣のテーブルに置いた。
振り向くと。
南条陽凌が冷たい目で彼女を見つめているのに気づいた。
彼女は不意に、驚いた。
「南条陽凌、なぜそんな風に私を見るの?」夏野暖香は不満そうに言った。彼女が遅く帰ってきたことで、また怒っているのだろうと分かっていた。