第221章 【221】危険な気配2

「い……いいえ、中に入るだけで大丈夫です。」夏野暖香は言いながら、橋本健太に向かって気まずく笑った。「今日はありがとうございました。」

もし乗馬クラブで橋本健太に会っていなかったら、彼女はどんな惨めな姿で撮られていたか分からなかっただろう。

「大丈夫ですよ。」橋本健太の笑顔は、いつも優しく、清らかな泉のように、静かに、音もなく彼女の心の川に流れ込んでくる。

温かく……近くにいるのに……でも手の届かない……

夏野暖香の目が不意に赤くなった。「さようなら……」

そう言うと、振り返って中へと歩き始めた。

歩くにつれて足取りが速くなり、頬に浮かんだ涙も大粒になって落ちていった。

地面に落ちた涙は、先ほど降った一時的な雨の中に消えて、跡形もなくなった。

橋本健太はハンドルを握りしめていた。

視線は、去っていく少女の背中に注がれていた。

突然、彼は左手を自分の左胸に当てた。

そこが、不思議と、痛みを感じていた。

予兆もなく訪れた痛みが、彼の四肢を襲った。

なぜ……なぜ胸がこんなに痛むのか?

なぜ……頭の中に、七々の顔が浮かぶのか?

橋本健太の目の前に暗い影が過り、血の色が混じっていた。

頭を、ハンドルに強く打ちつけた。

いや……

きっと七々が恋しいだけだろう?

ここ数日、まるで魔が差したかのようだった。

たった今、彼はなんと、人妻に対して感情を抱いてしまった。

しかも、この女性は、自分の親友の友人でもある。

いけない。

橋本健太の手の甲に、青筋が浮き出てきた。

七々……必ず君を見つけるよ!

絶対に。

……

ホテルでシャワーを浴び、服を着替えてから、南条陽凌を見舞いに病院へ向かった。

もし南条陽凌が彼女が雨に濡れたのを見たら、きっとまた彼女をからかうだろう!

普通のスポーツウェアに着替え、髪を乾かしてから、出かけた。

ロビーに降りたとき、レストランでステーキとイタリアンパスタを注文し、南条陽凌に持っていくことも忘れなかった。

午後の出来事を経て、シャワーを浴びた後、夏野暖香は気分が不思議と良くなったと感じた。

橋本健太と二人で車の中で静かに過ごした時間を思い出すと、その感覚は、まるで子供の頃に南條漠真と一緒にいた時のようだった。

幸せな感覚だった。