夏野暖香は指先をだんだんと締め付けた。
しばらく葛藤した後、結局、我慢できずに立ち上がり、橋本健太のスマホを手に取った。
彼女のスマホは病院に置き忘れてきたし、来る時には何も持ってこなかった。
彼女はタクシーでここまで来たが、もし橋本健太が現れなかったら、おそらくタクシー代さえ払えなかっただろう。
でも、南条飛鴻と関口月子たちに電話をかけるべきだろうか?
夏野暖香はスマホの電源を入れたが、視線はスマホの画面に引き寄せられた。
待ち受け画面には、若かった頃の彼女が写っていた。制服を着て、桜の木の下に立ち、明るく笑っている姿だった。
あの時、たぶん15歳だったろう。
学校の中庭の桜が咲いた時、学校が写真撮影を企画し、橋本健太はわざわざ人に頼んで彼女の写真を一枚撮ってもらった。
その写真は、スキャンしたものだろう。
夏野暖香は、彼がまだこの写真を持っているとは思わなかった。
心の中で、一瞬にして複雑な感情が湧き上がった。
しかし、スマホの電波を見ると、なんと圏外だった!
夏野暖香は思わず驚いた。
ここには電波が届かないのか!
そうだよね、山の中だし、こんな大雨だし。
なぜか、夏野暖香はかえってほっとした。
おそらく、これもすべて天意なのだろう!
ただ、彼女が知らないのは、向こうでは、南条陽凌がすでに発狂寸前だということだった!
……
「若様、まだ若奥様の情報はありません……」リゾートホテルで、藤田抑子は目の前の車椅子に黙って座っている男を見つめながら、いつもは冷静な彼の声さえも震えていた。
若様が若奥様が行方不明になったことを知ってからすぐに、人を派遣して捜索し、自ら病院を離れてホテルの部屋に戻った。
部屋の中の物は何も減っておらず、夏野暖香が明らかに一度も戻ってきていないことがわかった。そして若奥様は、まるで蒸発したかのように、全員がリゾート全体を捜索しても、夏野暖香の姿は見つからなかった!
南条陽凌は片手で車椅子の肘掛けをきつく握りしめていた。
手の甲からは、関節がぶつかり合うきしみ音が聞こえてきた。
男は黙っていたが、全身から爆発寸前のオーラを放っていた。
突然、彼は何かを思いついたようだった。