安堵のため息をつくと同時に、それに続いて訪れたのは、さらに大きな絶望だった。
彼女は突然目を上げると、橋本健太の視線が、ちょうど彼女に向けられているのを見た。
その視線は淡々としていたが、瞳の中には、かつてないほどの冷たさが隠されていた。
「皇太子、今なら信じてくれるだろう、私と夏野暖香ちゃんの間には何もないということを?もし、少しでも私たちの間に何かあったなら、彼女は私に銃を向けることもなかったし、まして引き金を引くこともなかっただろう。」
橋本健太の言葉は、あまりにも自然で淡々としていて、まるで、さっきまで命の危機に瀕していたとは思えないほどだった。
彼はこれほどまでに冷静沈着だったが、その瞬間、夏野暖香ちゃんは、心の中がさっき銃を撃った時よりもさらに絶望的になるのを感じた。
時として人の心の傷は、現実の傷よりも百倍も痛いものなのだ。
橋本健太のたった一言で、彼女は完全に、救いようのない地獄へと突き落とされた。
彼は彼女に対して、きっと極度に失望しているのだろう!
このような状況では、たとえ愛し合っている二人でも、このような残酷な試練の前では、おそらく一瞬で、お互いの心を失ってしまうだろう。
南条陽凌の言っていたことは正しかった、彼が欲しかったのは、確かに橋本健太の命ではなかった。
それは、橋本健太の心だった。彼は彼女に自ら、二人の間のあらゆる可能性を断ち切らせようとしていたのだ。
これが、南条陽凌の、綿密な計画、根本からの策略だった。
夏野暖香ちゃんは地面に座ったまま、突然冷笑を漏らした。
笑い声はどんどん大きくなり、ますます耳障りになっていった。
南条陽凌……あなたの勝ちね。
あなたはたった一つの小さな策略で、私に彼の心を失わせた。
そして私をこれから、あなたを憎むようにさせた!
夏野暖香ちゃんは南条陽凌を強く睨みつけた。
「南条陽凌、満足したの?これで、満足したの?」軽やかな声が、彼女の口から発せられた。
南条陽凌の体が、わずかに震えた。
目に、一瞬の動揺が過ぎった。
そして、無表情に冷たく言った:「若奥様を、休ませに連れて行け……」
「はい、皇太子!」すぐに人が前に出て、夏野暖香ちゃんを支え起こした。