第285章 【285】夏野暖香、やるな2

しかし、わざと何でもないふりをした。

南条陽凌が牛乳を口元に持っていき、飲み込むのを見ていた。

夏野暖香は目を大きく見開いていた。

南条陽凌も彼女を見つめていた。

まだ飲み込む前に、彼の表情が少し変わったように感じた。

夏野暖香は片手でパジャマの裾をきつく握りしめていた。

南条陽凌は目に笑みを浮かべ、彼女を一瞥した。

そして、牛乳を飲み込んだ。

「プッ……ゴホゴホ——」南条陽凌の手にあった牛乳のカップがテーブルに落ち、我慢できずに残りの牛乳を一気に吹き出した。

向かいにあったノートパソコンの画面が悲惨な目に遭った……

一瞬にして、あたり一面に牛乳の香りが漂った。

その後、南条陽凌は急に夏野暖香を押しのけ、頭を抱えながら地面で発作を起こしたように激しく跳ね回った。

夏野暖香はテーブルの角を掴みながら、笑い転げそうになった。

「夏野暖香、お前は容赦ないな——！」南条陽凌は彼女を指さして歯ぎしりしながら言った。なんと牛乳にわさびを入れたのだ！しかも、こんなにたくさん～！

この娘は本気で彼を痛めつけようとしているのか！

もっとも、南条陽凌はすでに予想していた、夏野暖香がそんなに親切なはずがないと。

彼女が塩とか、味の素とか、酢とかを入れるだろうと思っていた。

彼女の気を晴らすために、彼もそれを受け入れるつもりだった！

しかし、彼女がわさびを入れるとは思わなかった。

一口のわさびを飲み込むなんて、鉄人でも耐えられないだろう！

南条陽凌は本能的に、元々ハンサムで聡明だった自分の頭が、一瞬で豚の頭のように腫れ上がったように感じた！

彼の自由奔放なイメージが！

忌々しい女だ！

数秒後、南条陽凌はようやく叫びながら我に返り、そして一瞬のうちに、鷹の目、狼の耳、豹の速さ、熊の力で……洗面所に駆け込んだ。

中で十数分もがいた後、出てきたときには、ほとんど力尽きそうになっていた。

夏野暖香は書斎のドアに半分寄りかかり、自分の「傑作」を見て満足げに口角を上げた。ふん、南条陽凌、あなたにもこんな日が来るとはね！

しかし、次の瞬間、南条陽凌の目つきがおかしいことに気づいた。

猟師が獲物を見つけたときのような輝きを放っていた。

しかも、その輝きは少し眩しかった。

夏野暖香は言うより早く、足に油を塗ったように一目散に逃げ出した。