第322章 【322】もう私を探さないで1

このとき、傍らで休んでいた松本紫乃はこの光景を見て、唇の端に冷笑を浮かべた。

何かを思いついたように、急いでスマホを取り出した。

スマホで遊んでいるふりをしながら、二人の様子を撮影した。

この画像では、後藤西城が暖香ちゃんを抱きしめているように見え、特に親密な様子に見えた。

他の人たちも集まってきて、心配そうに暖香ちゃんの様子を尋ねた。

夏野暖香は額を押さえながら、目の前の人を見て言った。「少しめまいがするだけ...監督、もう一度撮り直せますか?」

その後のいくつかのシーンは、撮影は大変だったが、何とか順調に進んだ。

昼休みの時間、夏野暖香は突然、橋本健太を探しに行くことを決めた。

彼女はこの件をはっきりさせなければならなかった。そうでなければ、絶対に安心できないだろう。

撮影所を出て、夏野暖香はタクシーを止めた。

遠くで、赤いBMWの運転席から、松本紫乃は夏野暖香が去っていく姿を見つめ、目に何かが閃いた。

通常、この時間帯に夏野暖香が外出することはめったになかった。

もしかして約束があるのだろうか?

最近、夏野暖香はトラブル続きで、何か起きているに違いない。

松本紫乃はそう考えながら、車を発進させ、そのタクシーを追いかけた。

橋本グループ。

「お嬢様、事前予約がないと入れません」フロントの警備員が夏野暖香を止めた。

夏野暖香は焦って言った。「では橋本健太に、夏野暖香が来たと伝えてもらえませんか」彼女は橋本健太に電話をかけたが、つながらなかった。

「申し訳ありませんが、橋本社長は現在会議中です」

夏野暖香は仕方なく会社の外で待つことにした。

遠くの車の中で、松本紫乃は橋本家の大きな看板を見て、目に疑いの色が浮かんだ。

「橋本社長、この件はこれで決まりですね!数日後、契約書にサインするために人を派遣します。我々と橋本家の協力は、今回も必ず成功するでしょう」エレベーターの中で、中年の男性が笑顔で橋本健太に言った。

「もちろん、必ずそうなります!」橋本健太は笑って答えた。

「ピンポーン」エレベーターのドアが開いた。

橋本健太が数人の重役を見送った後、振り返ると、遠くに立っている夏野暖香が目に入った。

「暖香ちゃん?」橋本健太は前に進み出た。「どうしてここに?」