第387章 キスしたのと同じようなもの

「誰かに言われたことある？人を吐血するほど怒らせる才能があるって？」彼は歯を食いしばって言った。

夏野暖香はにやりと笑った。「あるかも……南条……」

言葉が途中で止まった。

どうして南条陽凌のことを思い出したのだろう！

彼のことを考えると、胸がモヤモヤする。

佐藤陽介は彼女の心を読み取ったが、それを指摘せず、彼女の隣に歩み寄り、しゃがんで顔を洗った。

温かい陽の光が顔に当たり、冷たい海水と相まって、顔を洗うのは確かに気持ちが良かった。

顔を上げると、夏野暖香がぼんやりしているのが見えた。

佐藤陽介の瞳孔が一瞬光り、突然水をすくい上げ、夏野暖香に向かって水をかけた。

「ばか女、何を考えてるんだ！」

「あっ！」海水が突然顔にかかり、首筋まで流れ込み、冷たさに夏野暖香は顔を覆って悲鳴を上げ、歯を食いしばりながら指の隙間から佐藤陽介を睨みつけた。

不意打ちされたのに、黙っているわけにはいかない！

素早く数歩後退し、両手で海水をすくい上げ、笑いながら佐藤陽介に向かって水をかけた。

佐藤陽介は叫びながら避けつつ、必死に反撃した。

二人は裸足で柔らかい砂浜の上で、じゃれ合い、戯れていた。

ほんのり塩気を含んだ海風が、涼しく顔に吹きつけ、心地よい感覚をもたらした。

波が次々と二人に向かって押し寄せ、二人は必死に走りながら、大声で笑い合った。

佐藤陽介はもう自分がこんなに心から笑ったのがいつだったか覚えていなかった。

少女の純粋な顔を見つめ、無邪気で明るい笑顔、そして金色の砂浜、青い海、空と一体になる景色。

すべてが、この世に悩み事など何もないかのように感じさせ、残るのは喜びと満足だけだった。

夏野暖香は佐藤陽介にやられっぱなしで不満だったが、彼が突然ぼんやりしているのを見て、すかさず不意打ちをかけた。

佐藤陽介の冷たく整った顔に、一瞬で海水がかかった。

夏野暖香は彼の狼狽した姿を見て、思わず大笑いした。

佐藤陽介は怒って低く唸り、歯を食いしばって夏野暖香を追いかけた。

この憎らしい女め、今日はきちんとお仕置きしてやる！

佐藤陽介が追いつきそうになったとき、夏野暖香は柔らかい砂浜を踏み、不注意で後ろに倒れそうになった。

夏野暖香が悲鳴を上げると、佐藤陽介は手を伸ばして彼女を引っ張ったが、勢いで一緒に倒れてしまった。