第517章 記憶の奥深くにいるあなた3

「警察が来たぞ！」その男は一瞬固まった。

そのとき、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。その男はどれほど度胸があっても、命を落としてまでお金が欲しいわけではなかった。棒を投げ捨てて逃げ出した。

南条陽凌はぼんやりとした意識の中で、一人の少女が彼に向かって歩いてくるのを見た。

小さな手が彼の頬を叩いた。「大丈夫ですか？しっかりして、すぐに助けを呼んできますから！」

彼はその時見た少女の姿を決して忘れることはないだろう。少女は白いセーターを着ていて、まるで天使が自分の前に舞い降りたかのようだった。

彼女はティッシュで彼の顔の血を拭きながら言った。「絶対に持ちこたえてください…」

そのとき、遠くから足音が聞こえてきた。

「くそっ、騙されたな…さっきのパトカーはこっちに来るんじゃないと思ったのに。」

少女はハッとした。

「早く逃げて、僕のことは気にしないで…」南条陽凌は彼女に言った。

少女は確かに立ち上がって走り出した。別の交差点まで走ると、突然叫んだ。「ここに人がいます！」

数人の男たちはその声を聞いて、すぐに彼女を追いかけた。

少女は人が多い方向に走りながら叫んだ。「助けて…」

一人の大柄な男が夏野暖香に追いつき、ナイフを彼女に向かって投げた。

夏野暖香が振り返ると、ボディーガードの一人が駆けつけて彼女を引っ張った。ナイフは彼女の腕を掠めた。

夏野暖香は悲鳴を上げて倒れた。

そのとき、パトカーのサイレンが鳴り、大勢の警官が現れた。

犯人たちは捕まった。

夏野暖香は彼らを連れて瀕死の南条陽凌のところへ行った。南条陽凌は夏野暖香が遠くに立っているのを見た。彼女の腕からはまだ血が流れていた。

「彼はあそこに…」彼女は少し弱々しい声で言った。

南条陽凌はその後担架で運ばれ、夏野暖香を一目見てから意識を失った。

彼は全身に複数の骨折があり、大量出血していた。病院で救急処置を受けた後、海外へ送られた。

もちろん、あの悪人たちはその後報いを受けたが、安藤明彦は死んでしまった。当時、その事件は南条帝国に大きな衝撃を与えた。

彼は南条帝国の後継者であり、祖父は彼の怪我を知って心を痛めた。

数年間、彼は国に戻ることを許されなかった。

外出するたびに、必ず十数人のボディーガードが護衛し、さらに強制的に武術を習わせられた。