第571章 私は全部脱いでいないのに、あなたは何を恥ずかしがっているの

彼は彼女に対して、とっくに嫌気がさしていたのではないか？

そうでなければ、彼女に離婚を迫ったりしないはずだ！

でも……彼女のために人質交換をした瞬間のことを思い出すと、心の中で、何か柔らかいものが、少しずつ広がっていくような気がした。

それが一体何なのか、彼女にもはっきりとはわからなかった。

しかし、一つだけ確かなことがあった。

今の状況では、夏野家と橋本家は、すでに火の車の状態に陥っていた。

南条陽凌がさらに追い打ちをかけなくても、すでにぐらついていた。

彼女は下唇を噛み、首筋には、まだ彼の手のひらの感触が残っているようだった。彼女は手を伸ばし、手の甲で自分の首筋をこすった。

しかし、空気の中には、依然として彼の匂いが充満していて、振り払うことができなかった。

彼女は仕方なく溜息をつき、下唇を噛んで、振り返り、ベッドの上の男を見た。

彼は両手を組んでベッドに横たわり、その姿は静かで怠惰だった。まるで先ほどの緊張した場面が、彼女の幻覚であったかのように。

彼女は心の中で恨めしく思い、何か言おうとしたが、唇の端が少し動いただけだった。

そして振り返り、床から天井までの窓の前に歩いていった。

窓には彼女の影が映し出され、蒼白い頬に少し赤みを帯びた小さな顔。彼女は手を伸ばし、何事もないかのように自分の額の前の髪をいじった。

視線は、その後、鏡に映るベッドの上の人影に落ちた。

彼はこうして眠ってしまったの？

長い夜を、彼女はどうやって過ごせばいいのだろう？

まさか、彼と同じベッドで寝るの？ダメ……

彼女にとって、今のこの男は、まるで危険生物のような、時限爆弾のような存在だった。

彼からは離れていた方がいい。

でも……彼女に床で寝ろというわけにもいかないだろう？

夏野暖香はソファに座り、部屋全体を見回した。

ヨーロッパ風の大きなベッド、部屋全体の装飾も、控えめな豪華さがあった。

足元には金色のイタリア製スワンベルベットのカーペットが敷かれ、柔らかい毛が足の指に触れると、とても心地よかった。

彼女は退屈そうにスリッパでカーペットをこすりながら、心の中で考えていた。南条お爺さんが彼女を気に入っているなら、夏野家の危機を乗り越えるために助けを求めることができるのではないか？