南条晋也の慈愛に満ちた眼差しを見て、心に感動が湧き上がった。
「おじいさま、ありがとうございます」
「でも...一つ言葉があって、言うべきかどうか迷っています」
南条晋也は彼女が何を言おうとしているのか察したようだった。
「記憶を失ってから、陽凌のことが好きではなくなったのかい?」
夏野暖香は少し困ったように「おじいさま...実は、私も彼と離婚したいと思っています」
南条晋也は言った。「とっくに気づいていたよ!君たち二人は今や立場が逆になったんだ!」
「立場が逆?」夏野暖香には理解できなかった。
南条晋也は特に説明しようとはせず、ただ意味ありげに微笑んで言った。「それもいいだろう。陽凌はいつも自惚れすぎていた。苦い思いをさせれば、これからどうやって自分の感情や結婚生活を大切にするか分かるだろう!」
夏野暖香「...」
「暖香ちゃん、おじいさんは君と南条陽凌に無理やり仲直りさせようとは思わない。しかし、今の状況では、夏野家を助けられるのは君自身だけだということを理解すべきだ」
夏野暖香は膝の上に置いていたもう一方の手で、軽く拳を握った。
南条晋也の言わんとすることは理解できた。
もし彼女が今の状況を救いたいなら、南条陽凌と和解するしかない。
たとえ表面上だけの和解であっても、この時期を乗り切らなければならない。
夏野暖香の心に何とも言えない苦さが湧き上がった。
結局のところ、彼女と南条陽凌は元の関係に戻るしかないのだろうか?
しかし...その代償は、取り返しのつかないものだった。
夏野暖香がそう考えていると、執事が入り口で言った。「ご主人様、若旦那がお戻りになりました」
話している間に、執事はドアを開け、南条陽凌が入ってきた。
南条晋也は茶碗を手に取り、南条陽凌に向かって投げつけた。南条陽凌はそれを見て素早くよけ、茶碗はカーペットの上に落ち、鈍い音を立てただけで、割れなかった。
「このバカ者、よくも帰ってきたな?」南条晋也は怒鳴った。
南条陽凌は笑いながら前に進み、ソファの後ろに立って南条晋也の肩に手を回し、「おじいさん、朝早くからそんなに怒って、血圧に気をつけてください」
「気をつけるのはお前だ!」南条晋也は目を上げて南条陽凌を睨みつけた。