第598章 赤ちゃん、ごめんなさい

橋本健太は立ち上がり、寝室へ向かった。

夏野暖香は少し驚き、急いで彼の後を追った。

彼が寝室に入り、ベッドに散らばったバラの花びらを整理して、脇に置くのを見た。そして彼女のためにシーツと枕を整えた。

それから窓際に歩み寄り、カーテンを閉めた。

部屋は一瞬で暗くなり、橋本健太は彼女の前に来て、彼女の肩を握りながら言った。「ゆっくり休んで、夜になったら外に連れ出すよ。」

夏野暖香は彼を見つめ、心全体が温かいお湯に浸かっているような感覚だった。

突然、彼の胸に飛び込んで抱きしめたくなったが、最終的には我慢した。

彼女は微笑んで「ありがとう」と言った。

「バカだな」彼は手を伸ばして、彼女の髪を優しく撫でた。振り返って数歩歩いた後、彼の大きな背中がまた振り返った。「僕は外にいるから、何かあったらいつでも呼んでね。」

夏野暖香はぼんやりと頷き、彼が振り返って出て行き、静かにドアを閉めるのを見つめた。

彼女はその場に立ったまま、心はなかなか落ち着かなかった。振り返ると、整えられたベッドが目に入り、カーテンの隙間から一筋の光が白いシーツに当たっていた。隅には、バラの花びらが散らばり、ベッドサイドの棚には一束のバラが挿してあった。

小さい頃、彼女が眠たいと言うと、南條漠真はこうして彼女のためにベッドを整えてくれた。今、彼がしたことはすべてとても自然で、彼女はまるで自分がまだ10歳の少女で、一夜にして二人が大人になったかのような錯覚を覚えた。

もしかしたら、二人が白髪になった時も、彼は今のように彼女を見守ってくれるのだろうか?

彼女はベッドの端に座り、涙がぽろぽろと落ちてきた。

なぜ泣いているのかわからなかった。心の中で苦しいのか幸せなのか言い表せなかったが、おそらく、少しだけ感謝の気持ちも混ざっていた。

おそらく、人生において、受け入れることが最も優しい態度なのだろう。ある人の出現を受け入れることも、ある人との永遠の別れを受け入れることも。

だから、今彼のそばにいられることも、明日彼が去ってしまうことも。

彼女は優しく人生に向き合い、勇敢に強く歩み続けるべきだった。

南條漠真、願わくば、あなたも私がしたことすべてを理解してくれますように...いつか、あなたも見抜いてくれますように。

……