「暖香ちゃん……中にいるの?」
いない……入ってこないで……
「七々?大丈夫?」橋本健太はドアをノックしながら尋ねた。
どうして大丈夫なわけがある?とんでもなく大変なことになってる……なぜ彼はあんなに平然としていられるの?男ってみんなそんなに寛容なの?
もし他の男だったらまだしも、でも、彼は南條漠真よ……
夏野暖香は引き続き死んだふりをしていた。
そしてドアが開いた。
橋本健太は入り口に立ち、ベッドの上で「大」の字になって死んだふりをしている少女を見つめていた。
清秀で端正な顔に、唇の端が微笑みで上がっていた。
一歩踏み出し、ゆっくりとベッドの側に歩み寄った。
手を伸ばし、彼女の腕を軽く触れた。
「暖香ちゃん……寝ちゃったの?」
寝てる、もちろん寝てるわ……
橋本健太は彼女のベッドの端に座った。
夏野暖香は彼の体から漂う淡い香りを嗅ぎながら、依然として身動きひとつしなかった。
「暖香ちゃん……」突然、熱い息が近づき、夏野暖香は耳元が熱くなるのを感じた。
彼女は全身を震わせ、急に体を反転させた。
そして橋本健太が目の前に座り、笑みを含んだ眼差しで彼女を見つめているのが見えた。
彼女はベッドに横たわったまま、手を伸ばし、十本の指で自分の顔を覆った。
「うぅ……」恥ずかしくて死にそう。
橋本健太は彼女の様子を見て、彼女がとても恥ずかしがっていて、耳まで真っ赤になっているのを見た。
彼の体を見ただけなのに、こんなに恥ずかしがるなんて。
そうだね、これまでは、彼にとって彼女は、兄が妹に対するような関係だったのだろう。
確かに、二人の気持ちはすでに明らかになっているけれど、やはり、ようやく再会したばかりで、まだそこまでの関係ではない。
彼女の可愛らしい姿を見て、橋本健太は自分の心の中で、何かが蜜のように少しずつ溶けていくのを感じた。
そして、暖かい流れが、少しずつ、足の裏から上がってくるのを感じた。
全身が一瞬にして、まるで火を注がれたかのように熱くなった。
彼は手を伸ばし、彼女の目の前に置かれた小さな手を掴んだ。
「七々……僕を見て。」彼は彼女の十本の指を開き、彼女に言った。
夏野暖香はゆっくりと目を開けた。