第39章 昨夜のあの女が欲しい

藤原輝矢は一瞬ぼんやりとして、反応する間もなく、林薫織に強く押しのけられた。彼は林薫織が去っていく後ろ姿を見つめながら、脳裏に先ほどの彼女の眼差しが浮かんだ。

傷つき、屈辱、悲憤、そしてまだ彼には読み取れない何かの感情。

なぜか、彼はイライラしていた。彼は目の前の椅子を思い切り蹴り倒し、顔色は最悪だった。

彼はさっき何をしていたのだろう?あの女の数滴の涙に心を動かされるなんて。芸能界では、涙で同情を買おうとする女なんて山ほどいるのに、彼はまんまと引っかかり、あの女に頭の上で好き放題させ、そのあげく逃がしてしまった!

これが広まったら、牧野天司たちに笑いものにされるのは間違いない。

バスに乗り込んだ林薫織は、力なく窓に寄りかかった。窓の外では小雨が降り続け、雨粒が窓ガラスを伝って流れ、薄い跡を残すが、すぐに他の水の跡に覆われ、痕跡を残さない。