第69章 売るなら、なぜ私に売れないのか？

「どこにいるの？」

「私は……一番後ろの休憩エリアにいます。」

「なぜ休憩エリアにあなたがいないのか？」

林薫織は眉をひそめた。この人は本当に休憩エリアまで彼女を探しに来たのだろうか？今はまだ式典が終わるまで少し時間があるはずだが？

彼女はいい加減な嘘をついた。「さっきトイレに行っていたんです。すぐに戻ります。」

「わかった。後で授賞式が終わったら、あちこち行かずに、休憩エリアで私を待っていなさい。」

林薫織は眉をひそめた。授賞式が終わった後は、もうかなり遅くなるだろう。人はまだ休む必要があるのか！

「藤原さん、後で何か私にさせることがありますか？」

「待てと言ったら待て、余計なことを言うな！」

林薫織は心の中では不満だったが、彼に逆らう勇気はなく、ただうなずくしかなかった。「はい、藤原さん。」

藤原輝矢の口調から、明らかにこの人は我慢強くないようだった。林薫織はゆっくりと立ち上がり、早めに戻ることにした。この閻魔様を長く待たせて、後で怒らせるのは避けたかった。

しかし、彼女が振り向くと、最も会いたくない人に出くわした。

彼女は氷川泉が自分の後ろにどれくらい立っていたのか分からなかったが、そのことを気にする余裕もなかった。彼女は足を踏み出し、氷川泉を避けて通り過ぎ、ただできるだけ早くここから離れたいと思った。

男は嘲笑うように唇を曲げた。彼に会いたくないのか？

それなら、彼女は失望することになるだろう。

手首が大きな手に掴まれ、林薫織は不機嫌そうに振り返った。「氷川さん、何かご用でしょうか？」

「林薫織、私があなたに言ったことを、あなたは忘れたようだね。」

「ああ？」林薫織は眉を上げた。「氷川さんが何を指しているのか分かりません。氷川さんは禾木さんから離れるようにと言いましたが、私はそうしたと思います。ほら、禾木さんが中にいると知って、すぐに出てきました。できるだけ自分を消して、彼女の目障りにならないようにしています。」

「それを言っているのではない。」

「では氷川さんは何を指しているのですか？はっきり言ってくださいませんか？そうすれば、あなた様のご満足のいくようにします。」

「藤原輝矢から離れるように言ったはずだ。」