第46章 お前、調子に乗ってるのか?

林薫織は無意識に後ずさりしたが、ファンの一人が痛みで叫ぶ声が聞こえた。「痛っ!私の足を踏んだわよ!」

「すみません、本当にすみません!」林薫織は慌てて謝った。

その人は彼女の手にある食べ物の箱をちらりと見て、口をとがらせて言った。「まあいいわ、あなたも輝矢のファンだってことで許してあげる」

その人がまだ言い終わらないうちに、林薫織が急いで外に向かって歩き出すのを見て、憤慨して言った。「謝るにしても、誠意がないわね。輝矢のファンになる資格なんてないわ」

林薫織が人ごみから抜け出したとき、ちょうど藤原輝矢から電話がかかってきた。

「どこにいるんだ?」

林薫織はまつげを震わせ、意を決して言った。「藤原さん、今、撮影現場の外にいます」

「現場に着いたなら、さっさと入ってこい。腹が減って死にそうだ!」

「でも、警備員が入れてくれないんです」

「入れてくれないなら、俺の名前を言えばいいだろう?バカか!」

「それも無理みたいです」もしそれで良ければ、他の熱狂的なファンたちもみんなその口実で入ってくるだろう。

「面倒くさいな!とりあえず入口で待っていろ」

藤原輝矢は電話を切ると、すぐに側にいた助手に言った。「行って一人連れてきてくれ…」

しばらくして、林薫織は撮影現場の入口で身分証を付けた女の子を見かけた。その女の子は群衆に向かって大声で尋ねた。「林薫織さんはどなたですか?」

林薫織は少し躊躇した後、意を決して言った。「ここです」

「ついてきてください」

林薫織は助手の後ろについて歩いた。撮影現場の外とは違い、中の芝生にはバラの花びらが敷き詰められ、周囲には高いバラのアーチが設置されていた。陽の光の下、バラは華やかに咲き誇り、まるでおとぎ話の世界のように、夢幻的に装飾された撮影現場だった。

林薫織はしばし我を忘れていたが、突然聞こえた女性の声で現実に引き戻された。

「化粧が少し崩れたわ、直してもらえる?」

女性の声は優しく魅力的で、まるで水が滴るように柔らかかった。この声を、林薫織はたった三度しか聞いたことがなかったが、それでも彼女の心に深く刻まれていた。三年経った今でも、すぐに識別できた。

初めて会った時、彼女は言った。「泉、彼女を困らせないで。彼女はわざとじゃないわ」