牧野天司が会社のオフィスに入ったとたん、藤原輝矢から電話がかかってきた。前回、藤原輝矢に良いところで邪魔されたことに恨みを持っていて、もうこいつとは関わらないと決めていたのに、結局は電話に出てしまった。
「もしもし?」
「お前のところにイギリス王立管弦楽団のチケットがあるって聞いたけど?」
牧野天司は眉を上げた。「チケットなら2枚あるよ。俺の宝物と一緒に聴きに行くつもりだったんだけどね。」
「1枚くれないか?」
「おや、太陽が西から出てきたのか?我らがポップ界の帝王は、ギターしか愛さないで、管だの弦だのの楽器が大嫌いだったはずじゃないか。今日はどうして管弦楽団のコンサートを聴きに行きたいんだ?」
「趣味が変わったらダメか?」
「兄弟よ、お前の趣味の変化はタイミングがいいな。」牧野天司はこの機会に彼をからかい、さらに火に油を注ぐように言った。「チケットを手に入れるために、俺は相当苦労したんだぞ。」
苦労?藤原輝矢は嘲笑した。こいつの手は少数民族の辺境地域にまで伸びているのに、チケット1枚買うような小さなことで苦労するわけがない。
しかし彼はそれを暴露せず、薄い唇を開いて言った。「それで?」
「お前と俺は股引きパンツで育った仲だから、欲しいなら譲ってもいいよ。ただ、兄弟の俺が損をするわけにはいかないだろ?」
牧野天司が遠回しに利益の話に持っていくと、藤原輝矢は唇を曲げて笑った。「何が欲しいか言ってみろ?」
「お前が新しく買ったロータスをくれないか?」
「もっと大きな要求をしてもいいんだぞ?」チケット2枚でロータススポーツカー1台と交換するなんて、こいつは完全に悪徳商人だ。
実際、言葉を口にした時点で、牧野天司自身も少し行き過ぎだと感じていた。しかし先日、このやろうに良いところで邪魔されたことを思い出すと、自分の要求は理にかなっていると思えた。
藤原輝矢にこんな風に何度も邪魔されたら、彼は機能障害を起こしかねない。そうなれば牧野家の血筋を継げなくなり、その損失はロータス1台よりもずっと大きい。
しかし驚いたことに、明らかに損をする取引なのに、藤原輝矢はあっさりと同意した。
牧野天司は藤原輝矢の父親のために安堵した。彼の息子が商売をしなくて良かった。さもなければ、家族全員がパンツさえ買えないほど損をしていただろう。