そのとき、電話がかかってきた。林薫織は画面を見ると、見知らぬ番号だった。彼女は少し躊躇したが、それでも通話ボタンを押した。
「もしもし、こんにちは、あなたは...?」
「薫織、私だよ」
たった一度しか会ったことがなかったが、林薫織はその声が誰のものか聞き分けることができた。「あ、先輩だったんですね。何かご用件ですか?」
「今夜、時間ある?」
「たぶん何も予定はないです」
「イギリス王立管弦楽団のチケットが2枚あるんだけど、時間があれば一緒に行かない?」
イギリス王立管弦楽団?彼女の知る限り、イギリス王立管弦楽団はどこへ行っても入手困難なチケットだった。
林薫織は以前、10年以上サックスを習っていて、練習した曲目の多くは王立管弦楽団が演奏したものだったため、少し心が動いた。