林薫織は目を輝かせ、視線を目の前の男性に落とし、少し心もとなく尋ねた。「お名前は何ですか?」
当初、デートの約束を受けたのは純粋に林の母に対応するためだったので、南方の姓名については特に気にしておらず、かすかに相手の姓が伊藤だということだけを覚えていた。
今思えば、実に恥ずかしい話だ。
男性は怒る様子もなく、とても辛抱強く自分の名前を繰り返した。「伊藤逸夫です。林さん、今度はしっかり覚えておいてくださいね。」
「はい、はい、先輩、必ず覚えます。」
林薫織は内心で文句を言った。早く会わなければ会わないで、よりによってこのタイミングで、大学時代の有名人物と知り合うことになるなんて。当時のルームメイトに伝えたら、彼女たちはびっくりして顎が外れるんじゃないだろうか?
大学時代のルームメイトのことを思い出し、林薫織は思わず目を暗くした。当時、退学が急だったため、彼女たちにさよならを言う暇もなかった。今考えると、少し残念に思う。