第172章 まったく救いようのない頑固者

「藤原さん、私はまだ用事があるので、先に失礼します。」林薫織はそう言い残すと、慌ただしく逃げるように病室を出た。

冷たい壁に背中を預け、木村響子と藤原輝矢の親密な様子が林薫織の脳裏に焼き付いていた。彼女は胸の辺りに手を当てた。

そこには、かすかな痛みが走っていた。

彼女はその感覚を必死に無視し、心を落ち着かせると、病室のドアに目をやった。ドアのガラス越しに、部屋の中で二人が楽しそうに会話している様子がはっきりと見えた。

林薫織は苦笑した。自分はどうしたのだろう。木村響子は藤原輝矢の正式な彼女なのだから、彼を見舞うのは当然のことだ。

美しい恋人が側にいるのだから、藤原輝矢はもう自分を必要としていないだろうと林薫織は考えた。ここにいても邪魔なだけだ。彼女はホテルに戻ることにした。