第171章 ときめき？

林薫織は藤原輝矢が満足そうな顔をしているのを見て、思わず笑みがこぼれた。この男は、怪我をしているときが一番手がかからない。ほら、体調が少し良くなるとすぐに彼女を困らせ始める。

彼女は彼に腹を立てることもなかった。藤原輝矢が彼女のためにほとんど命を懸けたことに比べれば、彼にお粥を食べさせることなど何でもないことだった。

彼女はまた一さじすくって、忘れずに言い添えた。「あなたの体はまだ完全に回復していないから、たくさん食べて、早く良くなってね」

男は彼女をじっと見つめ、「君は僕のことを心配してるのか？」

林薫織は目を伏せ、もっともらしく言った。「あなたは私の上司で、私の衣食の親なんだから、当然心配します」

それを聞いて、男は眉をひどく顰めた。「つまり、もし僕が君の上司じゃなかったら、君は僕のことを気にかけないってことか？」

「もちろんそんなことはありません」林薫織は心から言った。「私が最も困っていたとき、あなたは私にこの仕事をくれました。私が最も絶望し、助けを必要としていたとき、あなたは迷わず私を助けてくれました。たとえあなたが将来私の上司でなくなったとしても、あなたの恩は一生忘れません」

藤原輝矢の顔に一瞬の違和感が走った。彼は軽く咳をして、この感傷的な雰囲気を打ち破った。「やめてくれ！それは小学生の作文みたいだぞ？俺はそういう気持ち悪いのは苦手なんだ！」

「藤原さん、私は本当のことを言っているんです」

「本当だろうが嘘だろうが知ったことか。ほら見ろ、言葉はきれいだけど、行動が伴ってない。今はもうお粥も食べさせてくれないじゃないか」

林薫織はそこで初めて気づいた。自分が話に夢中になって、藤原輝矢に食べ物を与えるのを忘れていたのだ。しかし、彼は立派な大人の男性で、手も足もあるのに、なぜ彼女に食べさせてもらわなければならないのだろう？

やはり、藤原輝矢はプリンス病だ。

心の中で文句を言いながらも、藤原輝矢が不満を言うのを恐れて、林薫織は大人しく食事を与える仕事に戻った。藤原輝矢はベッドでくつろぎながら横になり、口を動かすだけでよかった。その快適さと贅沢さは、古代の皇帝とほとんど変わらなかった。