林薫織は慌てて立ち去ったが、氷川泉が自分を追ってくるのではないかと心配になり、振り返ってみると、氷川泉がいたはずの場所には誰もいなかった。
彼女の心は少し軽くなった。この男はあまりにも恐ろしく、彼女にはもう彼と渡り合う力も気力もなかった。さらに、氷川泉が母親の前に現れることを恐れていた。母親がこの人をどれほど憎んでいるか、彼女は誰よりもよく知っていた。母親にはどんな刺激も与えたくなかった。
なぜか、このとき藤原輝矢の姿が彼女の脳裏に浮かんだ。脳裏に浮かぶ藤原輝矢のふざけた笑顔に、林薫織の暗い気持ちが少し明るくなった。
林薫織は認めざるを得なかった。この男は少しずつ自分の骨髄に侵入し、少しずつ自分に影響を与えていた。
時間は音もなく流れ、あっという間に大晦日になった。林の母の病状は悪化の一途をたどっていたが、彼女は家で新年を迎えることを強く望んでいた。林薫織は母の願いを断り切れず、結局承諾するしかなかった。