部屋は灰白の寒色調で、氷川泉のスタイルにぴったりだった。
さっきから今まで、林薫織は氷川泉の姿を見かけていなかったので、思わず尋ねた。「暁美さん、氷川泉はどこ?」
「旦那様は先ほど電話で、パーティーに出席するので、少し遅くなると言っていました。」
「そう?」林薫織は心が少し軽くなったが、自嘲気味に笑った。早かれ遅かれあの一撃は来るのだから、むしろ素早く痛快に来てほしいと思った。
暁美さんは林薫織の考えを読み取ることはできなかったが、彼女の表情から気分があまり良くないことは分かった。林薫織と初めて接する暁美さんは、彼女の性格をよく理解していなかったので、この時は距離を置くのが良いと判断した。
「林さん、もし何もなければ、私は下に行きます。私は下の小さな寝室にいますので、何か必要があればいつでも呼んでください。」
林薫織はうなずいた。「わかりました、暁美さん、お先にどうぞ。」
暁美さんが去った後、広い主寝室には林薫織一人だけが残された。彼女は寝室の明かりをつけず、ベッドの端に黙って座り、両目で手に持った2枚のコンサートチケットを見つめていた。もう8時を過ぎているから、コンサートはきっと始まっているだろう。もし、もし藤原輝矢が自分が来なかったことを知ったら、失望するだろうか?
その時、T市の体育センターはすでに人で溢れかえっていた。広大な体育センターの観客席は人々で埋め尽くされ、最後列の席のチケットさえもチケット販売開始時にすぐに売り切れていた。先日の噂は、藤原輝矢にとって全く影響がなかったようだ。
オープニングの数曲のアップテンポな曲とダンスは、会場全体を盛り上げた。藤原輝矢が衣装替えのために舞台裏に行っても、ファンたちは興奮した気持ちを抑えられなかった。皆が藤原輝矢の登場を待ち望み、まるで息を合わせたかのように、会場中で一斉に藤原輝矢の名前を叫んでいた。
「藤原輝矢!藤原輝矢!藤原輝矢!藤原輝矢!」
「藤原輝矢!藤原輝矢!藤原輝矢!藤原輝矢!あ!!!!!藤原輝矢!!!!」
藤原輝矢が再び姿を現した瞬間、会場の観客はさらに興奮して抑えきれなくなった。あるファンは興奮のあまり、舞台に駆け上がり、藤原輝矢に熊のようなハグをした。