藤原輝矢はアシスタントからギターを受け取り、一人で高いスツールに座った。彼が口を開いた瞬間、コンサート会場全体が静まり返った。
「初めて君に会った時、君は頭を深く下げていた。見た目は卑屈なのに、目には誇りが宿っていた。」
「痩せこけていたのに、背筋はまっすぐに伸ばしていた。」
「深く傷ついていたのに、強がっていた。」
「君は春風のよう、また細雨のよう、いや、君は空気だ。音もなく存在しているのに、君なしでは生きていけない…」
……
一字一句、一つ一つのフレーズを、藤原輝矢は心を込めて歌っていた。
薫織、この曲は特別に君のために書いたんだ。一言一句が僕の心の奥底から来ている。聞こえているかい?
客席は暗すぎて、藤原輝矢には観客席の人々がはっきりと見えなかった。彼の顔は常に林薫織がいるはずの方向を向いていた。観客席にかすかに細い影を見たが、彼が知らなかったのは、その人物が林薫織ではなかったということだ。