第291章 二人きり(一)

広々としたアスファルトの道路を、黒いベントレーが疾走し、最終的に郊外のある別荘に入った。中に入ると、林薫織はこの別荘が住居ではなく、高級西洋料理レストランであることに気づいた。

林薫織は皮肉っぽく口元を歪めた。金持ちは本当に遊び方を知っている。

高級な場所だけあって、中のサービスは当然一流だった。レストランの玄関に入るとすぐに、給仕が前に出て、彼らからコートを受け取った。

西洋料理レストランの中では、優雅なピアノの音が水の流れる音と共に聞こえ、空気中にはかすかにラベンダーの香りが漂っていた。その香りはとても軽くて淡いものだったが、とても良い香りだった。

レストランに入って、林薫織はようやく気づいた。レストランの片隅のピアノ台の近くに、小さなラベンダーが植えられていたのだ。これには少し驚いた。彼女はそのラベンダーが本物かどうか確かめに行きたかったが、氷川泉がまだ自分の側にいることを思い出し、結局諦めた。