第307章 お前は恋愛の達人だ

「やめてよ、私たちは元恋人なんだから、あなたの気分が良くなくても、昔の情を少しは思い出してくれてもいいでしょう」

「誰が元恋人だって?」ドアの外から突然声がして、二人の会話が中断された。

「誰がいるの?」木村響子は不機嫌そうに振り返ると、ドアから顔を覗かせる人影が見えた。

木村響子は元々とても美しく、その上、堂々とした雰囲気があり、牧野天司は一瞬で目がくらんだ。牧野天司は服装を整え、気取った様子で病室に入り、美女と話すチャンスを自然に掴んだ。

「やあ、美女!君は木村響子だよね?テレビで見たことあるけど、本人はもっと美しいね」

木村響子は彼を多くの遊び人の一人だと思い、相手にせず、藤原輝矢に向かって言った。「あなたのマネージャーがドラマの話を持ってきたって聞いたわ。ちょうどそのドラマの監督が私にも声をかけてきたの」

「それで?」藤原輝矢は眉を上げた。

「それで、予想通りなら、これからの数ヶ月、私たちは共演することになるわ」

「君はモデルなんだから、ランウェイを歩いていればいいのに、なぜ芸能界で無駄な時間を過ごすんだ?」

「何が無駄な時間よ?あなただって歌手でしょ。あなたが映像業界に進出できるなら、私だってできるわ。いいわ、私がここに来たのは、ただあなたに知らせるためと、ついでにあなたが障害者になっていないか確認するためよ」そう言いながら、木村響子は藤原輝矢のギプスをした足を指で軽くたたいた。「撮影チーム全体があなたという主役を待つために、撮影開始の時間を延期したって聞いたわ。この足はしっかりしないとね。私を長く待たせるのは良くないわよ」

ところが藤原輝矢は「君がそのドラマに出るなら、俺は降りる」と言った。

「あなた、よくも!」木村響子は突然、自分の反応が少し過激だったことに気づき、感情を抑えて言った。「もういいわ、私はこのあと別の仕事があるから、先に行くわ。でも、藤原輝矢、警告しておくわ。今回のドラマ、あなたは撮影するしかないの。撮影しなければ、私があなたを許さないわよ」

この言葉を残して、木村響子はさっと立ち去り、病室には石のように固まった二人が残された。

牧野天司の視線は木村響子の美しい姿を追い続け、やっと視線を戻すと、藤原輝矢に近づいて、悪戯っぽく言った。「あの木村響子、まだあなたに未練があるみたいだね?」