「いや、やめて!そんなことしないで!お願いだからやめて!」
林薫織の動きが激しかったため、氷川泉はすぐに目を覚まし、ベッドサイドのランプをつけると、林薫織を強く揺さぶった。「林薫織?林薫織、早く起きて!」
「いや、だめ!やめて!」
林薫織は突然目を見開き、悪夢から目覚めた。灯りの下で彼女は目を細め、徐々に視界がはっきりしてきたが、目の前の男性の顔を認識した瞬間、恐怖が再び心に湧き上がった。
彼女は恐れて後ずさりしようとしたが、男に肩をしっかりと掴まれ、冷たい声で言われた。「林薫織、君は悪夢を見ていたんだ」
悪夢?
林薫織はハッとし、少しずつ恐怖から立ち直ってきた。そう、彼女は悪夢を見ていたのだ。さっきのは単なる悪夢、ただの悪夢に過ぎなかった。
しかし、悪夢であっても、林薫織が氷川泉を見る目には警戒心が増していた。まるで次の瞬間、彼が夢の中のように自分に襲いかかってくるのではないかと恐れているかのように。
林薫織の目に浮かぶ恐怖と警戒心はすべて氷川泉の目に映っていた。彼は彼女が一体何を夢見たのか分からなかったが、それが彼女をこれほど怯えさせるものだったとは。
彼は手を伸ばして林薫織を抱き寄せ、横になりながら大きな手で彼女の頭を優しく撫でた。「もう寝なさい」と低い声で言った。
男の声は優しく、普段の彼とはまるで違っていて、林薫織にはまるで今自分を抱いているのは別人なのではないかという錯覚さえ覚えた。
しかし、もし氷川泉が、彼女の悪夢に出てきた「怪物」が実は彼自身だったことを知ったら、彼はすぐに態度を変え、彼女をベッドから蹴落とすのではないだろうか?
彼女はそれも十分あり得ると思った。
だから、すべての優しさや親密さは偽りなのだ。この男の本質は決して変わらない。彼は彼女の幸せを台無しにし、彼女と藤原輝矢の間の愛を壊した。そして最も重要なことに...彼はまだ伊藤逸夫の命という借りがある。
この借りは、彼女は決して忘れないだろう!
結局、夜半過ぎは林薫織にとって耐え忍ぶ時間となった。
突然腰の辺りが緩み、隣のマットレスが動いた。続いて服を着る音が聞こえてきた。林薫織は目が覚めていたが、まだ眠りを装っていた。ただ氷川泉が早く出て行ってくれることを願うだけだった。