二人は一言ずつ交わしながら、手は引っ込めようとしなかった。二人とも笑みを浮かべ、打ち解けた様子で話しているように見えたが、空気は次第に火薬の匂いで重くなっていった。
雰囲気が微妙になり始め、その場にいる人々の中で、巻島一也を除く全員がそれに気づいていたが、誰も指摘しなかった。ソファに座り続けていた藤田逸真も、この件に介入するつもりはなく、まるで見物人のような態度で、大きな出来事の幕開けを期待しているようだった。
「二人は知り合いなの?」巻島一也は笑いながら尋ねた。
藤原輝矢は意味深な笑みを浮かべた。「僕と氷川社長は単なる知り合いどころか、古くからの知己ですよ」
「それはよかった。知り合いじゃないと気まずいかなと思ってたけど、みんな知り合いなら話しやすいわね。お腹空いてるでしょ?食事にしましょうか?」
藤田逸真は腕を組み、愛情たっぷりの眼差しで巻島一也を見つめ、心の中でため息をついた。こんな状況でも、純粋で優しい彼の妻だけがうまく対処できるのだろう。
確かに、この一言で雰囲気は少し和らいだ。一行はメイドの案内でダイニングルームに入り、それぞれ席に着いた。主人である藤田逸真と巻島一也は四角いテーブルの上下に座り、氷川泉と林薫織はテーブルの左側に、藤原輝矢と木村響子は右側に座った。
偶然かどうかはわからないが、林薫織の向かいの席に藤原輝矢が座っていた。彼女が顔を上げれば、すぐに彼の姿が目に入る位置だった。
席に着いてから、彼女は顔を上げなかった。正確に言えば、上げる勇気がなかった。今の彼女には藤原輝矢をまともに見る勇気さえなく、彼の冷たい表情や無関心な目を見るのが怖かった。
食卓で、林薫織はずっと俯いたまま、目の前のステーキを早く食べ終えて、早く立ち去りたいと思っていたが、氷川泉はそうはさせなかった。
「あなたは痩せすぎよ、もっと食べなさい」氷川泉は切り分けたステーキを林薫織の前に押し出し、彼女の皿を取り替えると、ゆっくりと一切れずつ丁寧に切り分けた。
男のこの行動は他の四人の目に入った。それを見た巻島一也は藤田逸真に不満を漏らした。「見てよ、氷川社長はなんて気が利くの。薫織が痩せすぎだからって自分で肉を切ってあげるなんて。どうして私があなたと結婚してもこんな待遇がないのかしら」
「ないかな?昨夜だって僕が直接君をお風呂に入れたじゃないか!」