第367章 この体を持っていけばいい!

楽しい時間はいつも過ぎるのが早すぎる。串焼きを食べ終わると、二人はついに別れた。半坂別荘に戻ると、氷川泉はリビングでビジネスニュースを見ていた。

足音を聞いて、男は振り返って彼女を見た。男の視線がショッピングバッグに触れた瞬間、冷たい顔が一瞬柔らかくなった。

「帰ってきたか?」

「うん」

林薫織はまだ近づかず、ショッピングバッグの中身を氷川泉に差し出した。「ほら、あなたが欲しがっていた財布。どんなブランドが好きか分からなかったから、これが気に入らなかったら使わなくていいわ」

「誰が気に入らないと言った?」

男は手を伸ばしてショッピングバッグを受け取り、財布を取り出して口元を緩めた。そしてソファの鞄から古いキャメル色の財布を取り出し、二つの財布を林薫織に渡した。

林薫織はキャメル色の財布を見た瞬間、どこかで見覚えがあると感じ、そして5年前に自分が氷川泉に買ってあげたものだと思い出した。

同じロゴ、同じデザイン、目の前のこの財布は彼女が5年前に買ったものなのだろうか?

「古い財布の中身を新しい財布に入れ替えてくれ」

林薫織は我に返り、思わず反問した。「あなた自分で手がないの?自分で入れ替えられないの?」

男は興味深そうに眉を上げ、少し位置を動かして彼女の隣に座り、腕を遠慮なく彼女の肩に回し、笑みを含んだ目で言った。「数時間会わないうちに、随分と傲慢になったな。確かに私には手も足もあるが、どうしても君に入れ替えてほしいんだ」

林薫織が立ち上がろうとすると、突然腰に力が加わった。男が少し力を入れた瞬間、林薫織は不意に彼と目が合い、男の顔に魅惑的な笑みが浮かび、じっと自分を見つめていることに気づいた。その眼差しは人を溺れさせるほど優しかった。

林薫織は硬直したまま顔をそらし、小声で言った。「禾木瑛香に頼めばいいじゃない」

禾木瑛香の名前が出た途端、リビングの雰囲気が一変した。男の顔の笑みが唇の端に凍りついた。しばらくして、男の低い声がリビングに響いた。「林薫織、空気を読めないのは、さすがだな」

男の声には寂しさと諦めが混じっていた。

結局、彼は無理強いせず、手を放して彼女を解放し、新旧の財布を手に取って階段を上がっていった。